第772話 修羅王戦を終えて②
「都洲河、生きているか」
意にそぐわぬ形で修羅王が傘下におさまった訳だが、ようやく一連のドタバタが収束した。
私自身、息をするのも苦しい状況だが聞かないわけにはいかない。
早く本来の目的である我孫子の元へ辿り着き、休戦を実現させなければならないのだ。
自分の負傷には目をつぶり、都洲河の状態を尋ねる。
「ああ、動く分には問題ないのだよ。だが、戦闘は無理だな。おそらくこれが第3系統外の副作用なのだよ。回復が全くできない。アイテムも効果がなく、【自動修復】も発動しないのだよ。今の俺はそこいらの村人と何ら変わらないHPしか持っていない」
お前のような村人がいてたまるか。
そうツッコミたいがそれすらも億劫だ。
【白気】の譲渡など万能すぎる能力だと思っていたが、なるほど、そんな副作用があったのか。
連続戦闘ができないのであれば、使い所はひどく限定される。
現に我孫子の元へ行く道中、私が都洲河を守らなければならなくなった。
譲渡した本人の【白気】は極限まで減り、譲渡を受けた人間は回復ができない。
なかなか上手くバランスが取ってある。
「そんな身体で、我孫子書記長の元へ行くなんて無理だよ。諦めてログアウトすることだね」
突如、足元から声がかけられる。
鬼怒川だ。戻ってこられたようだ。
「【強制憑依】を解いてもらったお礼としてアドバイスしてるんだ。悪いことは言わない。このまま、ログアウトした方が君達のためだよ」
どうやら、鬼怒川にも動けるだけの体力が残っていないようだ。
地に伏したままの状態で口だけ動かしている。
「春日井さんとの戦闘中、他の仲間達に連絡を入れておいた。直に増援が来る。我孫子書記長だって僕の通信で事態を把握している。いまさら都洲河を我孫子書記長の元へ連れて行ったって、停戦が為されるかどうかなんて分からない。それにまだ、八束学園の主力は無傷だ。満身創痍の君達が勝てる相手じゃない。今、ログアウトすれば、デスペナは発生しない。悪いことは言わないからさっさとログアウトするんだね」
鬼怒川の言葉はひねくれてはいるが私達の身を案じての言葉だ。
だが、幾度かの問答でもあったが私がその選択肢を取ることはない。
このまま、PKして経験値をもらおうかとも思ったが既に虫の息のプレイヤーにとどめを刺す気分にもなれない。
議論は避け、先を急ごう。
そう思い、鬼怒川を背にした私に回復の光がさした。
「【癒やしの魔眼】だ。都洲河は代償のせいでリフレクトされるから無理だが、君になら効果はあるだろう。進行性の回復で時間はかかるが上手くいけば、戦闘開始前ぐらいの状態にまで戻る。せいぜい上手く逃げて時間を稼ぐんだね。僕にとどめを刺ささなかった礼だ。これで貸し借りはなしだよ、春日井さん」
戯けたような口調で鬼怒川はそう告げた。
読んで頂きありがとうございました。次回の投稿もなんとか頑張ります。
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