第756話 鬼怒川は春日井真澄を前にして、ふと物思いに耽る⑩
絶対に防御が不可能な攻撃というのは幾つか存在する。
例えば、防御が間に合わないような超速の一撃。
これは春日井の場合、常時展開だから不可能。
【浸透勁】のような装甲無視。バリアブレイク攻撃。
僕は拳士でもなければ、魔法使いでもない。
剣技でそういった特殊な効果を持った斬撃を放つことは僕よりも剣の腕が立つ三栗原ならあるいは可能かもしれないが、少なくとも僕には不可能だ。
防御無視の効果を持つ【次元斬り】が使えれば、一太刀で勝負がついていたものを。
今、彼女の【次元斬り】が使えればと痛切に思うがないものねだりである。
【スキルコピーの魔眼】でコピーをしておくんべきだったか。
となれば、シンプルに【聖皇理力】【黄金気】の二重構造の防御の上から叩き斬るしかない。
第3系統外【神通力】は相手を弱体化させるだけでなく、自分を強化するためにも使える。
自分の四肢に【神通力】を込めた小刀を敢えて刺し、準備を整える。
春日井は、先程から自分の身体をポコポコ叩いて幻術への警戒を行なっている。
誰に教えてもらったのか、あれは最も簡単にできる幻術破りだ。
お互いに自分で自分にダメージを与えている妙な状態だ。
使う魔眼は【修羅王の魔眼】だ。
正直、使うのを躊躇う一品だ。
【修羅王の魔眼】は僕の持つ魔眼の中でも強いものの一つだ。
だが、その性質は【無影夢想の魔眼】とはまるで違う。
対象を殺さない限り、原則、解除もできない呪いの魔眼だ。
身体能力は超絶跳ね上がるが常時バーサークモードで、視野はむしろ狭くなる。
あまりにも強力すぎるため、【神通力】と相性が悪い。
威力が強すぎて互いに反発する可能性まである。
だが、それらは全て些事だ。
この魔眼の最も恐ろしいところは使い手であるプレイヤーの意識に介入してくるところだ。
だからたぶん、これも12賢人の作品の一つだ。
この魔眼を使うと自分の思考が支配されているような陶酔感があり、我を忘れて周囲の人間に襲いかかってしまう。
自分で自分を止められないのだ。
前回使った時は、興奮状態でパーティーにも攻撃を加えていたという。
ロールプレイの一貫だよと笑って誤魔化したが、自分で仲間を攻撃した意識がまるでないところが恐ろしい。
使っていた瞬間、確実に仲間を敵だと認識していた感覚があった。
仲間を攻撃する際の躊躇いや後でマズイことになるという理性がまるで働かなかった。
以来、どれほど窮地に陥ってもこの魔眼は使っていない。
だが正直、この魔眼でも使わなければ春日井にダメージを与えることなどできないだろう。
悩んでいても仕方がない。
幸い今は一人だ。
今ならフレンドリーファイヤの心配はまるでない。
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