第755話 鬼怒川は春日井真澄を前にして、ふと物思いに耽る⑨
分割思考を止め、目標である春日井だけを見据える。
【魔王調伏】はオートで進めても問題ないとハッタリをかましたが、本当のところは微妙だ。
問題がないとも言えるし、あるとも言える。
本来、オートで進めても【調伏】は完成するはずなのに、どういう技術を使ってか都洲河は反撃してくる。
だからこそ、手動による常時監視を取り入れて制御を行なっているのに、それでも先程のような不意の一撃が飛んでくる。
そう考えれば、完全なオートにするのは危険すぎる気もするがやむを得ない。
今は春日井を倒すことの方が先決だ。
春日井が精神攻撃への耐性をまるで持っていないのは実証されている。
フィールドの形成は甘いがこのまま、【無影夢想の魔眼】で押しきるべきだ。
そう思って幻術込みの斬撃で攻撃してみたが、春日井は僕の幻術に正確に対抗してきた。
幻術が効いているのは間違いない。
幻術を喰らったうえで、これは幻術だと自覚して攻撃を仕掛けているのだ。
目をつむって字を書いているようなものだ。
キレイな字は書けなくても、意味は伝わる。
精神防壁の弱さをこんな形で補うとは脱帽だ。
やはり、幻術が幻術だとバレた時点で正面からの幻術攻撃は通用しないものか。
ハイランカーを相手にした時に使う、フェイント主体の幻術に切り替えるか。
そうなると本当に厄介だな、第3系統外の並列運用というのは。
防御力が高すぎて僕の攻撃力では春日井の装甲を抜けない。
何度も決定的なチャンスがあったのに刃が通らなかった。
つくづく春日井とは相性が悪い。
彼女と戦っていると【魔眼使い】としての限界を感じてしまう。
【魔眼】の本質は増幅などのサポートが主体だ。
地力に決定的な開きがある場合はサポート能力なんかあってもどうにもならない。
これなら、剣士としての職を極めていった方がよかったのではないかと後悔がよぎる。
【上級剣士】のその先、【剣王】や【剣神】であればどれだけ装甲が厚かろうが関係なくダメージを通すだろう。
自分の才能に早い時点で見切りをつけてしまった挙句がこの体たらくだ。
剣士としての自分に諦めをつけ、【魔眼使い】に。
【魔眼使い】の自分に自信が持てずに【第三系統外】を求めた。
どんな状況にも対応できるオールマイティーと言えば聞こえはいいが実質は器用貧乏だ。
スペックがかけ離れている相手には手も足も出ない。
だが何としても、この女にだけは勝ちたい。
まるで世界が彼女を祝福しているかのように、彼女には力と仲間が自然に集まってきた。
思いつきで我孫子書記長に宣戦布告し、幸運と口先だけでこんなところに立っている。
その存在が僕の努力を嘲笑っているかのようだ。
こんな女に負けるわけには絶対にいかないのだ。
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