第753話 鬼怒川は春日井真澄を前にして、ふと物思いに耽る⑦
敵に塩を送るようなこんな甘い気持ちが湧くのは格下だと侮っているからだけではない。
春日井は第3系統外の並列運用に成功している。
あれは僕に取っても救いだった。
まさか、第3系統外を2つ同時に使えるとは考えもしなかった。
春日井はその代償として随分と疲弊しているようだが、リスクがその程度なら大成功と言っていい。
第3系統外エネルギー炉は【神通力】や【気】【聖皇理力】【魔皇紋励起】など、まだまだたくさん存在する。
組み合わせ次第ではもっと消耗の少ないパターンも存在するだろう。
相性のいい第3系統外を見つければ、僕も並列運用が可能かもしれない。
考えるだけで楽しくなってくる。
春日井を倒し、都洲河を【調伏】してしまえばマムルークの攻略はなったも同じだ。
生徒会の覚えもめでたくなり、より困難なクエストにも着手できるだろう。
未踏領域に入れば、新たな第3系統外を手に入れることも容易いはずだ。
そこまで力を手にすれば、春日井をもう一度、A組に迎えてやってもいいな。
戦力は多いに越したことはない。
一度、完璧な敗北を知れば、彼女も少しは従順になるだろう。
反抗的な態度を取らなければ、彼女も可愛い顔をしている。
春日井は未だ僕の仕掛けた幻術の中にトリップしている。
苦しませず、一太刀で首をはねるか。
そう思った瞬間、右手腕に鈍痛が走る。
見れば、深々とナイフが刺さっていた。
都洲河だ。
今まで自分の精神防御にリソースの全てを注ぎ込み、僕の【魔王調伏】に抵抗していたのにココでそう来たか。
僕が【無影夢想の魔眼】の制御に思考を割いた分、【魔王調伏】の制御が甘くなったのかもしれない。
本当に勘に触るやつだ。
おまけに今ので【無影夢想の魔眼】の制御も崩壊した。
当然、春日井が正気に戻ってくる。
「どうだったかな、僕の大規模幻術。第3系統外と幻術とのコンボだね。僕のことを完全に無視してくれたお礼だよ。邪魔がなければ、雑兵相手に無双し、クライマックスで我孫子書記長の所にたどりつき、目的達成のビジョンを見たところでその首を落としてやろうと思ったのに…」
苦し紛れの台詞を入れて、春日井を少しでも牽制する。
想定外も想定の内だ。
本当は切り札の幻術が破られ動揺しているが、そんな様子は微塵も見せてはならない。
あくまでもこれもシナリオの内だと匂わせる。
それが幻術使いというものだ。
そうすることで、今も幻術にかかっているのでは? 自分の今の状態に疑問を持たせる。
自分で自分の判断に自信が持てず、疑心暗鬼にさせれば、土壇場で必ず生きてくるのだ。
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