第752話 鬼怒川は春日井真澄を前にして、ふと物思いに耽る⑥
【無影夢想の魔眼】。
第3系統外【神通力】がなければ、起動すらしなかった僕の秘蔵の魔眼の一つだ。
【魔眼】の中には修得しても発動しないものや未だに使い方が分からないものが数多くある。
その名前の力強さから、この【魔眼】にはきっと何かある。
そう思ってずっと研究を続けていた【魔眼】だ。
この【魔眼】は対象に幻を見せるだけの【魔眼】ではあるが、他の【魔眼】とは比較にならない性能を持っている。
幻術のリアリティーがゲーム級なのだ。
通常、プレイヤーが幻術攻撃を受けるとインフィニットステーションの安全装置が作動し、視界に幻術術下のアイコンが出る。
そうやってプレイヤーは今、自分が幻術攻撃を受けていることを自覚するのだ。
随分と無粋な使用だと思うがそうでもしなければ、第3者の悪意あるプレイを野放しにすることになる。
ゲーム内では現金の決裁だって行なっているのだ。
この安全装置がなければ、幻術をかけて、クズアイテムにゼロを2つつけて決裁させたり、街中でプレイヤーに幻術をかけてNPCをモンスターに誤認識させて殺させたりと色々やりたい放題できる。
だが、この【無影夢想の魔眼】にはインフィニットステーションの安全装置が働かないのだ。
対象に意図した幻を自由に見せることができる。
おそらく、この【魔眼】は十二賢人の作ったものだ。
ハードのリミッターをソフトの力で排除するなどという力技は彼らにしかできないだろう。
こんな逆転現象が起きているのも、ハード製作者の思惑とソフト製作者の野心はまるでかけ離れているからだ。
第7のIT革命と持ち上げられ、ドアの施錠から、エアコンのオンオフなど生活の端々にまで利用されるようになったインフィニットステーション。
そのハードがもたらす生活の利便性。
それは十二賢人の求めた結果ではなかったはずだ。
十二賢人はもっと純粋にゲームだけを楽しんでいたのではないかというのが僕の推察だ。
先程、考察した詐欺プレイ。誤認識プレイ。あれだってゲームの内だ。
どうして駄目なのか? プレイヤーはそれを覚悟して、このゲームをプレイしているのではないのか。
そんな叫びがこの【魔眼】から感じる。
それでも第3系統外とのコンボでなければ、発動しないという点で彼らの抑制は見てとれるのだが。
まあ、どうせログが残るのだから犯罪じみた使い方はできやしない。
いずれにせよ、この【魔眼】にかかった者は僕が幻術を解除するまで夢を見続ける。
少々、卑怯な気もするが春日井にはこのまま死んでもらおう。
何せこのゲームは現実世界と同じで何でも有りだ。
物理攻撃力や物理防御力の強化に拘るあまり、精神防御を疎かにしたのが悪い。
極振りはメリットも大きいがデメリットも大きい。
ハイランカーを相手にすれば、どの道、通用するものではない。
精神防御が弱点だと分かれば、彼らは必ずそこを突いてくる。
戦争が終わった後であれば、この事実を教えてあげてもいい。
格下であるうちは彼女のパーソナルにも好感が持てるからだ。
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