第75話 春日井真澄は思った。よく考えたら何も変わっていないと
RDHがエミリーを連れ立ち去った後、私は無言で立ちすくんでいた。ようやく、動けるようになった渚が声をかけてくれて今日のところはログアウトしようということになった。
もう一度、RDHに挑むにしろ戦力が足りないし、どこへ行ったのかも分からない。
◇◆◇
ログアウトした私はインフィニットステーションを外すこともせず、ずっと考えていた。自分は一体何処で何を間違えてしまったのかを。
一緒に第一階層の夜を見たせいだろうか。エミリーの会話になど付き合わず、もっとNPCとして雑に扱うべきだったのだろうか。
エキストラクエストなど受けるべきではなかったのだろうか。そうすれば、他階層を比較することもなくシステムの矛盾にも気づくことがなかったかもしれない。
RDHが最初に現れる前、きちんとエミリーの想いに答えなかったからだろうか。
そもそも私は何にこんなに苦しんでいるのだろうか。相手はただのNPCなのだ。
ゲームをする上でポーションは消費されるし、気に入っていた防具や武器だって破壊される。銃に到っては弾丸はドンドン消費されていくのだ。失ったのは人ではなく、モノなのだ。
私はインフィニットステーションを外してテーブルの上においてあったクッキーを一つ食べた。甘い。
なにか失ったような気分だがそれはまやかしだ。私は実際には何も失っていない。その証拠に今、食べたクッキーの味はまるで変わっていないではないか。
全てまやかしなのだ。ゲーム上のデータ《じょうほう》が少し消えただけで何も変わることなどない。自分は何も失っていないのだ。
そう思うと元気が出てきたような気がした。
私は最近、サボっていた勉強に取りかかった。そういえば、今日は帰ってすぐログインしたので宿題もしていない。第2新聞部に入部したのだ、三重野さんは自由に部活内容を決めていいとも言ってくれた。なにをするべきかも考えねばならない。
うんうんと考えていたがやらねばいけないことが山ほどある。悩んでいる暇など無いのだ。私はまず、宿題から取りかかった。
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7月18日5時23分ごろ誤掲載してしまいました。申し訳ありません。消し方分らなくて大分、焦りました。




