第746話 春日井真澄VS百の魔眼使い⑨
遠距離攻撃は苦もなく避けられてしまうため、『NS110鋼の剣』を使った近接戦闘に切り替えているのだが、改めて思う鬼怒川は本当に強い。
都洲河や我孫子のような他人を威嚇するようなザラザラとした存在感でもなく、ただそこにあり、絶対に倒れない芯の強さのようなものを感じる。
強さで達人者級の存在感を醸し出しているわけではなく、その在り方で達人者級の風格を出していると表現するべきか。
とにかく数多の攻防でそれを嫌というほど実感した。
並列思考を使い、指揮を取れ、仲間のサポートもでき、各種魔眼を使いこなす。
各種魔眼は【百目】の名に相応しく、行動阻害系からダメージ軽減、幻術、ステータス増強まで幅広く取り揃えている。
それらを完璧に使いこなすことで、上級の実力者が達人者級にまで、スペックを底上げしている。
おまけに剣の腕も一流とは…引き出しの数が多すぎる。
おそらく、元々、上級剣士であった鬼怒川が【魔眼】を修得し、できることを増やしていったのだろう。
それは万能を目指した鍛え方だ。
凡人が一つ一つ弱点を潰すことでいつか最強に辿りつく。
そんなロマンが鬼怒川の戦い方から透けてみえる。
これなら野心を抱くのも理解ができる。
逆にこれほどの実力を持ちながら、今まで、なぜサポート役に徹していたのか疑問が出てくる。
現状、腕力は私の方が上、技量は鬼怒川の方が上だ。
何度も強打を入れるが鬼怒川は非常に上手く捌いてくる。
そのたびに鬼怒川から痛烈なカウンターを何度も受けているが私の【聖皇理力】と【黄金気】の装甲は堅固だ。
通常の斬撃ではやはり、鬼怒川は私にダメージを入れる術を持たない。
つまり、両者の実力は奇しくも拮抗しているのである。
後は厄介な【無影夢想の魔眼】だ。
念のため、先程から一定間隔でわざと自分にダメージを入れるようにしている。
HPが僅かに減る程度の極小のダメージだ。
自分で自分をボコボコ殴っているのだ。
睡眠や幻術はほとんどの場合、強めのショックを受けると解除される。
祥君からそんな話を聞いたのを思い出したからだ。
気休め程度にしかならないかもしれないがないよりましだ。
鬼怒川が苦笑いしながら見つめているが、無視だ。
現に今、幻術にはかかっていない。
互いに決め手がなく、こうなると千日手の様相を呈してくる。
私としては剣術の稽古になるのでいつまででも付き合っていたいところだが、仲間の身が気がかりだ。
彼らは私を勝たせるために、自分の身を犠牲にしているのだ。
こんなところで、時間稼ぎをされるわけにもいかない。
そろそろ、リスクを度外視した起死回生の一手を打たねばならない。
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