第743話 春日井真澄VS百の魔眼使い⑥
流れで私と対決してるのかと思ったが私怨だったとは驚きだ。
だが、これでは絶対に逃げられないな。
やはりここで決着をつけるしかない。
「お前の見立ては失敗してるよ、鬼怒川。【喫茶MAOU城】がある限り、都洲河はいずれお前の支配から逃れていた。そもそも、お前は裏からパーティー支配しているつもりだったのかもしれんが実際は統治の体をなしていない。お前のパーティーは皆、自由意志で行動しすぎている。お前の支配が効いていない証拠だ」
私がそう指摘すると鬼怒川は苦笑いを浮かべながら返した。
「まあ、それについては同意せざるを得ないよ。皆、春日井みたいな低レベルのプレイヤーに負けて動揺してたんだ。そりゃ、君を見ればムキにもなって行動するさ。いや、自分を見失ってるって言った方がいいのかな。普段は皆、もう少し理知的に行動しているさ」
「平常時に言うことを聞いたってコントロールできてるとは言わないよ。ムキになってるときや、怒りで我を忘れている、そんな時でも指示したことを的確にこなす。そういう状態に陥らせないのがコントロールするって言うんだよ。お前のやってることは支配者の小間使いにすぎない。お前は支配者の重みや痛みを知らなさすぎる。それではいつまで経っても支配者の小間使いから脱することなんてできやしない」
結局、鬼怒川がやっているのはリスクを取らないいいとこ取りだ。
周囲の利害調整を適切に行い、その中で自分の利益も確保するまではいいが、事が起きた時、責任を取る覚悟がまるで見えない。
対応できないイレギュラーが起きた時や、自分の責任で利害調整に失敗した時、鬼怒川はどう動く気なのだろう。
きっとリーダー役に全ての責任を押し付ける気なんだろう。
別段、それはそれで構わないが意外と周りの人間というのはそういう行為をしっかり見ている。
しっかり見た人間は心の奥底では鬼怒川のことを信用しない。
自分の為に他人を裏切る人間は自分の為に他人に裏切られるものなのだ。
「言ってくれるね、春日井さん。やっぱり、君は不快だよ。その存在自体が」
鬼怒川の雰囲気ががらりと変わった。
どうやら今の一言で完全に火をつけてしまったようだ。
「そろそろ、こちらからも仕掛けるか。まもなく、【魔王調伏】は完成する。後はオートでなんとかなるだろう」
そう言うと私の方に向かって斬りかかってきた。
ゆらりと表現するのが適切であろう速度だ。
速くもないが遅くもない。
私は回避を選択した。
避けるための時間も間合いも十分にあった。
しかし、逆袈裟に大きく刀傷が走った。
どういうことだ? 幻術か?
HPが減少したことを考えると実体のある攻撃だ。
いや、問題はそこではないか。
【聖皇理力】と【黄金気】で守られた装甲を突破したことだ。
今の私にダメージを入れるには【魔王】級の攻撃力が必要だ。
今のは明らかに何の変哲もないただの斬撃だった。
あの程度であれば、刀の方がへし折れる。
私の認識に介入したのかもしれない。
だとすれば、この刀傷。ダメージ表示など全てが偽物である可能性もある。
厄介だな、高位の幻術使いとの戦闘というのは。
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