第740話 春日井真澄VS百の魔眼使い③
一体いつの間に幻術になどかけられたのか。
セカンドワールドオンラインにログインして以降、幻術攻撃を受けたのは初めてなので検討もつかない。
幻術とは皆、現実と区別がつかないほど精巧な幻を見せる技術なのだろうか。
これほどの攻撃を何のリスクもなく、容易く発動できるなら幻術使いが最も強い職業になりそうなものだが。
そう訝しんで周囲を再確認すれば、私の周囲に刀が十数本刺さっていた。
やはりか。
都洲河に使用中の【魔王調伏】と同じだ。
この術式がかかった刀を刺すことが鬼怒川の代償なのだろう。
【遠見の魔眼】でも使い、質々浜の足止め失敗を悟った鬼怒川が事前に敷設していたのだろう。
後は進行ルートから私の出現位置を読み、体術でここに誘導したのだろう。
あの出合い頭の蹴りはそのための伏線だったわけだ。
「どうだったかな、僕の大規模幻術。第3系統外と幻術とのコンボだね。僕のことを完全に無視してくれたお礼だよ。邪魔がなければ、雑兵相手に無双し、クライマックスで我孫子書記長の所にたどりつき、目的達成のビジョンを見たところでその首を落としてやろうと思ったのに…」
そう言って鬼怒川は忌々しそうに都洲河を見る。
よく見れば都洲河は何かを投げたようなモーションで固まっている。
先程はあんな格好ではなかった。
鬼怒川の幻術に落ちた私を助けてくれたようだ。
「慣れない精神防御を維持するのにやっとのはずなのにどこからあの余力が出てくるのやら。【魔王】のプライドってやつか、下らない」
吐き捨てるような口調で鬼怒川は呟く。
どうやら、2人の仲はかなり悪いらしい。
主に今までずっと鬼怒川が我慢していたのだろう。
やっと優位に立てる状況が作れたせいで口がよく回っているのだろう。
とりあえず、鬼怒川の大規模幻術とやらは術式のかかった刀の敷設が前提条件になるようだ。
まだまだ、周囲に配置されているかもしれないが気をつけていれば、それほど脅威ではない。
おそらく【聖皇式理力探知】を使えば正確な位置も判定する。
問題はこのまま鬼怒川と戦うべきかどうかだ。
種が割れたからには2度目の逃走は成功するはずだ。
そう理性は判断しているが本能はコイツを倒さずに離脱するのはとても危険だと警告してくる。
これ以上の隠し玉はないと思うが、ないと決まったわけでもない。
何らかの方法でもう一度、幻術をかけられれば私が知覚することは不可能だ。
そう思わせることも鬼怒川の戦術の一つなのかもしれない。
何をしてくるか分からないような敵を前にしての逃亡は危険すぎる気がする。
ここは甘い考えを捨てて、きっちり鬼怒川を倒してから先に進むべきなのか。
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