第733話 春日井真澄は孤軍奮闘して頑張る④
「一度、大敗を喫したことで私、己を見つめ直しましたの。修得条件があまりに困難なので放置していた【十二冠位のオーラ】を完成させ、強さに磨きをかけました。慢心を捨てた今の私に弱点はありませんわ」
そう言うと質々浜は再び【青気】を展開させて急襲してくる。
先程は不意を突かれ、直撃を受けたが【青気】を使っているからといって質々浜はそれほど速くはない。
せいぜい動けないデブが動けるデブに変わった程度だ。
【聖竜皇の竜眼】を使えば、回避は容易い。
質々浜の言葉に惑わされる必要はない。
問題なのは質々浜の防御力だ。
現状、私には質々浜の装甲を抜く手立てがない。
前回、やられた【黄金烈眞槍掌】対策として更なる防御力を手に入れてくるとは頭が下がる。
完璧すぎる対策だ。
普通は浸透頸なんてマイナーな技の対策なんて立てない。
直接、触れねば発動しないのだから、回避力を上げて接触を避けたり、遠距離攻撃を主体に戦闘を組み上げたりするのが常道だ。
【十二冠位の気】の特性もあったのだろうが、どれだけ負けず嫌いなのか。
質々浜の攻撃は私に当たらず、私の攻撃では質々浜にダメージを与えられない。
千日手の様相を呈してきた。
究極回避と究極の防御、どちらが有利かと問われれば、プレイヤーのほとんどが究極の回避と答えるだろう。
体力消費のマイナスはあるが攻撃にも応用が効き、成功すればダメージをゼロに押さえることができる。
究極の防御というものがあっても、防御する以上ダメージゼロというのはありえない。
どれだけ、極小であっても防御するからには必ずダメージを喰らう。
それが、1なのか2なのか、0.01なのかは分からないが徐々にダメージを与えていけば、いずれ殺せる。
私自身もそう思っていたが今はその0.01を作り出すのが難しい。
今は余裕で質々浜の攻撃を回避しているがいずれスタミナが尽きればつかまる。
静観している鬼怒川も乱入してくるかもしれない。
劣勢でない今が一番のチャンスなのだ。
「戦闘中にぼーっとして! 死にたいのですか!!」
質々浜がそう叫ぶと【赤気】によって強化された【気弾】が飛んできた。
【気弾】も持っていたのか!?
近接の玄人という思い込みが、その可能性を捨てていた。
速度は遅い。
だが、私の反応がワンテンポ遅れた。
回避だけはなんとか成功。
しかし、体が完全に崩れた。
「【竜首水瓶流気功術奥義、猪狩門様錦】」
【黒気】といずれかの【12冠位の気】で強化された痛烈な右ストレートが私を襲う。
これは躱せない。直撃を受ければ致命のダメージだ。
「ようやく出しましたわね…噂の第3系統外の並列運用」
満足したような笑みで質々浜がそう呟いた。
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