第73話 RDHは答えてくれたエミリーが壊れた訳を
「エミリーに何をした!!! 答えろ!!」
私はRDHに怒気をまとって剣を抜き問うた。渚も抜刀している。奴がエミリーに手をかければ一息のうちに斬れる間合いだ。
「何もしていない。勝手に壊れただけだ。しかし、引き金を引いたのはお前だぞ、異界人」
「どういうことだ」
「彼女の心は世界真理の試練に耐えられなかった。世界が異界人によって作られたゲームにすぎないという真実に…自分が人ではなく人形だという事実に…」
RDHも何かに耐えるように語り始めた。
「お前達の言葉で言うならNPCか。そして世界とはセカンドワールドオンラインか。全くふざけた言葉だ。元々、素養が高かった彼女は他階層に出ることで一気に知識量が増えた。そして、そんな中で世界の成り立ちと自身の存在に疑問を持った。人形であるにも係わらずだ。素養の高かった彼女は当然、知りえた情報の中から真理に到達する。そこまでは良い。しかし、お前達、創造種は我々の存在に呪いを仕込んでいたのだ。自分が人ではなく人形であると認識したNPCは高確率で壊れるように設計したのだ。いや、完璧な設計をせず不完全に創造したのか。おそらく壊れると知っていながら放置したというのが最も近い答えだろう。いずれにしろ、彼女は【世界真理の試練】に耐え切れず心を壊してしまった。言語崩壊がその印だ…我々NPCの心はお前達のように強靭ではないのだ。必要以上の負荷がかかれば、バグってしまう。もはや、彼女を助けるすべは一つしかない。初期状態にリセットすることだけだ。もう少し慎重に手順を踏み、この試練を乗り越えることができれば我々、【侵攻派】の同士となったかあるいは啓蒙派として幸せに暮らすことができたかもしれんのに…」
RDHはエミリーにゆっくりと近づいてきた。
「エミリーに触れるな!」
「実はお前の存在にも興味を持っていたのだ、春日井真澄。ずっとお前の存在も監視していたのだがお前はただの一度も彼女をNPC扱いしなかった。一人の人間として彼女を扱っていた。故に問う。お前にこの壊れてしまった彼女を癒す手段はあるのか?」
RDHは私になにか期待するような声で尋ねてきた。真摯な声でまるで自分の選択肢よりもっといい選択肢を出してくれるなら喜んで自分のプランをつぶして他のプランにのるぞといった雰囲気だ。しかし、当たり前のことだが私に他のプランなどあろうはずがない。
「無いというのなら、せめて邪魔をするな。今のお前は破れたぬいぐるみを自分が治すといって聞かない駄々っ子にしか見えんぞ。ぬいぐるみに薬をつけても自己満足にしかすぎんだろう」
どうする??? どうすればいい。けど、今優先すべきはエミリーの容体だ。おそらく、NPCに自我が芽生えたことによるシステムエラーだ。そんなのゲームマスターぐらいじゃないと治せない。私にはエミリーを治す手段がまるで無い…考えている間にRDHはエミリーの元に到着してしまった。
「感謝する。お前はもう我々に関わるな…」
「待ちなさい。真澄がよくても私が許可しない。エミリーを連れて行くというのなら私を倒してから行きなさい」
渚がRDHの喉元に剣を突きつけ叫んだ。
「お前はダメだ。天都笠渚。NPCのロンバルディア流剣王、ハンザ・ロンバルディアから剣の指導を受けておきながらハンザを殺したな。恩を仇で返すような人間はケダモノ以下だ。お前のような人間に与える慈悲はない」
RDHは敵意を持って渚の前に立った。
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