第722話 ティルジットは摩訶不思議な敵と遭遇する②
超高速の動きで各務原を翻弄する。
途中で礫を拾い、各務原に向けて投擲。
攻性防御が発動し、礫は粉々に。
攻性防御はやはり自動発動か。
だが礫を投げた俺は無傷。
これは各務原の攻性防御が近接系自動防御であることを示している。
遠距離攻撃を使う術者にまで攻撃が及ぶ訳ではないということだ。
つまり、超威力の遠距離攻撃であればノーリスクで攻性防御を破れる。
問題は超威力の遠距離攻撃を持っていない点だ。
高速戦闘を得意とする俺は近接攻撃に特化し、防御や遠距離攻撃をほとんど持っていない。
牽制程度の遠距離攻撃ならあるが決め手にはならないだろう。
コイツの相手はドレフュスなんかが適任なんだが、一目散に自分の弟子を助けに行きやがった。
そのために諸々を犠牲にしてこんなところまで来たのは分かるがもう少し適性とかを考えてほしかった。
また、泣き言が入ったな。
これも精神干渉の影響なのか。
自分と相性の悪い敵になどしょっちゅう遭遇する。
戦場で相手を選べるはずがない。
自分の強みを活かし、相手の弱みを狙う。
戦術の基本ではないか。
積極的に仕掛けるという方針が早くも綻びかけている。
結局、俺に残された選択肢はダメージ覚悟で突っ込むだけだ。
超高速で接敵し、懐に飛び込む。
各務原も今度は反応し、カウンターを打ってくる。
練磨された【白気】が練りこまれている。いい拳だ。
だが、見てから反応している2流の動作だ。
俺を捉えるには到らない。
俺の速さに目が馴れるにはもうしばらく時間がかかるだろう。
右腕に【青気】と【黒気】をしこたまのせて攻撃。
すぐさま攻性防御が発動し、右拳が砕ける。
えげつないな。俺の攻撃が倍加されて返されている。
しかも各務原は無傷。
これでは物理攻撃完全無効化ではないか。
連続攻撃ならどうだ。
左腕に【青気】と【黒気】を集中。
「【幕無青連拳】」
【青気】によって極限まで加速された高速打撃が各務原を襲う。
攻性防御による反撃はまだ襲ってこない。
連撃は有効だ。
攻性防御による逆襲が始まるまでに一発でも多くの打撃を入れる。
最後の一撃を入れた瞬間、左腕に激痛が走る。
【幕無青連拳】の攻撃が全てカウンターとなって返ってきた。
悲鳴を上げそうな心を無理矢理、押さつけて距離を取る。
ダメージは甚大だが、連撃が有効であるというのは価値ある情報だ。
ようやく勝ち筋が見えた。
ボロボロに潰れた左腕は放置し、拳だけがイカれた右腕を【白気】で治療。
みるみる回復していく。
だが、俺はそこで信じられないものを見る。
左腕を犠牲にすることでようやくダメージを入れた各務原の傷が早くも回復しているのだ。
【白気】による治療だ。
長期戦になる。俺はそれを覚悟した。
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