第716話 ドレフュスは戦場でらしくない自分に気付く⑩
転機は【気弾の発射キャンセル】を覚えた時か。
モンスターとの戦闘中、タイミングを逃して【気弾】を撃てなかった。
戦闘終了後、思ったのだ。
もったいない。
撃てなかった【気弾】はどこに行ったのか? と
さっそく実験してみると発射をキャンセルした場合、半分は霧散し、もう半分は体内の【気】と混ざり合った。
その時、思ったのだ【気弾】を発射せず、体外に留めておくとどうなるのかと。
発射の前段階を維持するのだ。
空中で発射前の【気弾】を維持し続ける。
この前段階を維持できれば、【気弾】0.5個分ではあるが【気の保存】が可能なのではと。
出すべきものを出さず、戻すべきものを戻さない気持ち悪さはあったが、【気弾】の維持自体は可能だった。
問題は睡眠時だ。
寝たら、【気弾】が霧散し体内の気に戻っていた。
そこで、睡眠を小刻みに取り、練習していった。
最初は5分うたた寝しただけで体内の気と混ざり合っていたが次第に長時間寝ても【気弾】を維持できるようになった。
そのころにはもう【気弾】の形状で【気の保存】を行わなくてもよくなっていた。
体内の別の器官で格納しているイメージを持てば、保存はなった。
そうやって徐々に【蓄電気の闘法】を完成させていった。
だが、未だ解放については答えを得ていない。
貯めることは可能だが解放した場合、ほとんど全てを一気に解放してしまう。
必要な時、必要な分だけ取り出すという器用な真似ができないのだ。
よって私の戦闘法は数年に一度、大物を狩るというスタイルに落ち着いた。
この戦闘スタイルは統治にも有効だった。
親しい者は皆、【蓄電気の闘法】について知っていたが、知らない者は私のことを大物だと勘違いした。
数年に一度、自分が敵だと認めた相手だけ狩りにいく。
強者のみと戦い、雑事には頓着しない。
そんな妙なイメージがついてしまった。
実際は【充練気中】だと、本来の力の2分の1も出せない使い勝手の悪い闘法なのだが。
いずれにせよ、この【蓄電気の闘法】を完成させることで一門での地位を確立し、派閥の中でも頼りにされるようになった。
完全解放すれば、誰と戦っても勝てたから当然だ。
クロサガ王国は基本、戦って勝った者の意見が通るから楽なものだ。
できれば、これから起こりうる事後処理。そのために完全解放は避けたかった。
この後に及んでまだ一門の心配をしているのだから処置なしである。
その未練が私の拳を鈍らせた。
相手は私と同じ凡人でありながらも、先に進もうとする偉大な敵だというのに。
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