第708話 ドレフュスは戦場でらしくない自分に気付く②
考えてみれば当然か。
それはトップである私の仕事ではない。
私が親身になって話を聞くことも重要だが自分達で声を上げ、意見調整を行い解決することも重要なのだ。
現状に不満があるなら正規の手段を使って上に上げていくべきなのだ。
成長のために必要な苦しみというものは存在する。
なのに私は成長のための必要な痛みを奪っていたのだ。
気付いた時には遅かった。
組織は巨大化しており、私の調整システムはシステムの一部に組み込まれていた。
やり方を変えようとすると不満の声が上がった。
手抜きだ。怠慢だ。もっと私達の声を聞いてくれと懇願され、身動きが取れなくなっていた。
私としても現状のやり方に不満はなかった。
発言力を維持するのにも好都合だったし、そこまで一門の成長にも愛着はなかった。
そうして問題を先送りすることで今日を迎えている。
まさに愚物の所業だ。
このまま一門も私も緩やかに腐っていき、どこかで誰かに丸投げするのだろうと思っていたが今回、私は終わりを加速させた。
この決断によって一門がこのまま終わるのか、生まれ変わるかは私にも分からない。
転機というものはある日、突然、やって来るものである。
もちろん、発端は春日井真澄。
原因は我が馬鹿弟子クーリッジである。
クーリッジの評価は様々だ。
数多いる私の直弟子の1人。私が特に目をかけている直弟子。戦闘力なら私を超える直弟子。
多様な評価があるがどれも正鵠を射ていない。
正解は私の精神安定剤だ。
特殊な背景があり、非常に幼いころから面倒を見てきた。
私が取る直弟子とは本来、心身が成長し、頭角を現した者だけだ。
礼儀作法は当然のこと、【気】の扱いも基礎を完全にマスターした者しか取らない。
それがクーリッジに限り、非常に幼いころから面倒をみてきた。
全てはフェビアンのせいだ。
ともかく【気】の扱いの基礎から、服の着方、脱ぎ方まで全て私が教えた。
礼儀作法が弱いのは私のせいだ。
私自身が本音の部分では面倒くさいと思っていたのが見事に感染った。
クーリッジを取られたのは本当に痛手だった。
私の知らない私の弱点を見抜き、妙手を打ってきた春日井の才能には本当に脱帽だ。
戦争の趨勢を考え、一門の未来を思えば、春日井の方にも賭けておきたい。
勝率は低いが当たればデカイ。
量は少なく、質の高い珠での賭けが要求された。
直弟子を1人派遣することで春日井との繋がりを強化できるというならもっけの幸いだった。
クーリッジはあの若さで成長限界を迎えていたから、ちょうど新しい環境が必要だった。
どんな過酷な環境であってもクーリッジ1人なら、逃げることぐらいはできるはず。
まさかクーリッジが春日井真澄にあそこまで取り込まれるとは思わなかった。
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