第706話 クーリッジは疲れた身体に自ら鞭をうつ⑩
「師匠! どうしてここに? 直弟子会議の結果は絶対だったんじゃなかったの?」
助けにきてくれて本当に嬉しい。
しかし、なによりもまず、師匠が参戦してくれた理由を尋ねていた。
師匠が一度決めたことを覆すなんてありえないからだ。
それこそ、あの真澄さんですら不可能だったほどだ。
直弟子会議の結果は否決だったし、ドレフュス一門の総意もダーダネルス・ガリポリの放棄に傾いていた。
どんな心変わりがあってもココに来るはずがない。
なのに現にココにいる。
それも完全武装だ。
ひょっとして、僕を助けるためだけに一門の方針を曲げたのか。
そんなことをしたらこの先、どうなるか分かったものではない。
その不安感が先程の疑問につながっていた。
「お前に政治について質問されると調子が狂うな。これも成長の結果か。お前の言う通りだよ、私は政治でしか動かん。その政治が動いたからこうしてやってきたわけだ。まあ、詳しい話はこの【吸血鬼】を倒してからだ。お前は黙って、そこで師匠の勇姿を見てろ。久しぶりに全力を出していい状況だからな。やりすぎてしまうかもしれんが流れ弾に当って死ぬなよ」
そう軽口を叩くと師匠は喜汰方に対峙した。
その背がいつも以上に頼もしく見える。
実を言えば、師匠が本気で戦ったところなど数えるほどしか見たことがない。
ある理由から師匠は決して全力を出せないのだ。
通常時の師匠であれば、上手くやれば僕でも倒せる。
既に幾つかの点では確実に師匠を超えているからだ。
それでも百戦百勝は絶対に無理だ。
確実に勝てるのは50回ぐらいだろう。
その戦闘経験値と絶妙の【気】のコントロールで常に優位を崩さない。
その師匠が始めから全力を出すと言っているのだ。
どのぐらいの実力を秘めているのか検討もつかない。
しかも、なんだか今日は妙に気合が入っている。
いつもの気怠げな雰囲気がまるでない。
これほどの実力を持ちながら師匠はあまり戦闘が好きではないのだ。
「それにしても【吸血鬼】か。高位の人外を相手にするのも久しぶりだ。確実に服が破けるな、一張羅なのに」
師匠は喜汰方を相手にしても気負うところがまるでない。
いつもの自然体だ。
「よく分からん展開だ。名はドレフュス? レベルは高いが参戦してくるはずのないキャラクターなのだが…俺自身がなにか別のクエストにでも巻き込まれているのか」
名乗りもしていないのに師匠の名前を見ぬいた。
後半部分は意味不明だ。
異界人は時折、理解できない呟きのようなものを発する。
願掛けか何かなのだろうか。
「ふうん、今のが異界人の固有能力【スペック読み】か。どういう原理かは知らんが強さを数値に置き換えることができるという。だが、その数値は絶対ではない。特に【気使い】の戦闘で数字など意味がないことを教えてやろう」
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