第703話 エミリーは後輩の前で絶対に負けられない戦いを行う⑧
「まさか、こんなに短期間の間に【神速】を完成させるなんてね…」
地面に仰向けになった状態で三栗原は呟く。
私はといえば、三栗原から受けたダメージと【技後硬直】の影響でまともに動くこともできない。
私も【オーラソード】を杖代わりにしてなんとか立っているような状態だ。
2度目の【神速】到達であったがまだまだ課題は多い。
成功率もそうだが発動の後の虚脱感が凄まじい。
【技後硬直】がなくとも、まともに動くことすらできない。
もう1人敵がいれば確実に死んでいる。
「私の十数年は一体何だったのかしら…」
私が止めを刺さないことに苛立っているのかポツリポツリと思いの丈を放つ。
やはり三栗原も【神速】に挑戦したことがあったのか。
手慣れた様子で【模擬神速】を放ってきたからもしやと思っていたが。
「失地回復のつもりで臨んだのに結果は大赤字。まだトッププレイヤー組に未練があったけれど、これで完璧に脱落ね…人生設計からやり直さいといけないわ。つくづく春日井と交流を持ったことは失敗だったわ。あそこで春日井と会わなければこうまで落ちぶれることもなかったのに」
この期に及んでまだ責任を真澄様に求めている。
思うところもあるが今は三栗原に好きなだけ喋らせる。
まずはどんな手段を使っても心の浄化を行わなければ話にならない。
「さっさと殺しなさい。【寸止め】なんて使って嬲りたいの? でなければ、すぐに回復してあなたの命を狙うわよ」
「【神聖】を帯びた剣はあらゆる【効果】を無効化します。それは【アイテム効果】であっても例外ではありません。『神話級アイテム』でも使えば別でしょうが…」
私がそう告げると三栗原は悔しそうに視線を逸らす。
【神聖】について知っていたか、『神話級回復アイテム』を持っていないのかどちらなのだろう。
「竜殺しの剣は卒業しました。私は竜殺しでも人殺しでもなく、人を救済する剣を振るいたい。その答えがこれです」
三栗原は私の言葉を聞いているだろうか。
聞いていなくても構わない。
私は私の為すべきことを為すだけだ。
「あなたが真澄様と出会っていなくても、結果は変わりませんでしたよ。いずれ大きな壁に当たり挫折する。壁とは先に進めば進むほど大きく硬く厚くなるものです。今のやり方を続けているようではどのみち、先はなかったでしょう。【神速】を修得できなかった時、あなたはその壁を感じていたのではありませんか?」
あえて古傷をえぐり、過去に対峙させる。
彼女は賢い。
真澄様に責任を押しつけるのが逃げだと本当は気付いているはずだ。
「命を投げ捨てろとまでは言いませんがあなたは必要以上にダメージを受けることを怖れていた。それでは生死をかけた戦闘で勝利することは叶わない。効率を捨てた先に求める答えが存在するのだから」
三栗原からの反応はまるでない。
一切、無言だ。
このまま己のプライドを守るため、無反応を押し通すのだろうか。
それもいい。
それでも私は彼女のための言葉を彼女に送る。
「最後の瞬間、あなたは刀を捨て拳での勝負を挑んできた。意表を突いたいい攻撃でしたが牽制にとどめるべきでした。刀を捨てるべきではなかった。刀はあなたの魂じゃないですか。私はあなたからの猛攻を受けた時も【オーラソード】を手放さなかった。すぐに作成できるにもかかわらずです。それが強さの質の違いです」
読んで頂きありがとうございました。明日の投稿もなんとか頑張ります。
ブックマーク、感想、評価、メッセージ等あれば何でもお待ちしております。
皆様のポチっとが私の創作の『独りでいれば寂しいし、複数人といれば煩わしい』(意味不明)ですので何卒よろしくお願いします。




