第701話 エミリーは後輩の前で絶対に負けられない戦いを行う⑥
戦闘開始からどのくらいの時間が経っただろうか。
私の【模擬神速】は徐々に速度を上げ【神速】に近づいているが三栗原の返しの速度も上がっている。
いいかげん、三栗原もカウンターを決めにくるだろう。
逆の立場であれば勝負は早々についていた。
私なら【模擬神速】をギリギリのタイミングで回避し、一か八かで【技後硬直】を起こした隙をつく。
真澄様や渚であれば、まず間違いなく決めていた。
ここまで私に【神速】発動のためのチャンスをくれているのはひとえに三栗原の心の弱さのせいだ。
人として限界の強さにまで達しているが唯一、心だけが脆弱なままだ。
最強クラスの剣士であるのにとんだ爆弾を抱えている。
命に執着しすぎているのだ。
それが過大な安全マージンを取ることに繋がり、決定的なチャンスを逃すことにも繋がっている。
普通の敵なら焦れて一か八かの攻撃を仕掛けくるだろうが三栗原には全くそんな素振りが見えない。
私が決定的なミスを起こすのを注意深く待っている。
勝負を急がない我慢強さというのは確かに美点だが、ココぞという時に賭けに出られない剣士というのも剣士としては失格だ。
ただの臆病者と評して間違いない。
このスタイルでよくここまでの強さを得られたものだ。
勝負に感情を混じえないこのスタイルだからこそかもしれないが、それでも一定以上の強さと敵と戦う時、このビビリスタイルは間違いなくマイナスに作用すると思うのだが。
敵失、いや、敵の臆病な戦闘スタイルに助けられたからこそ、生きているわけだが何故か物悲しさも感じる。
人としての限界の強さにまで達しながら、祥様のようにそれを超えることができなかった。
私は【剣王】として失われた可能性の損失に嘆く。
故に私が導いてやらねばならない。
私の戦い方を通して自らの欠如と不足に思い知らせてやるのだ。
「【乱れ撃聖剣・模擬神速】」
既に何発も【模擬神速】を撃つことで【模擬神速】なら完全にマスターした。
故に【模擬神速】を使った連続斬りで勝負をかける。
【神速】狙いの全身全霊を込めた一撃でもないため【技後硬直】も発生しない。
テンポを急に変えることで三栗原の目はついていけないはずだ。
初撃は予定通り躱される。
本命は二の太刀、三の太刀だ。
だが、しっかりと太刀筋を見極められヒットが奪えない。
【模擬神速】を使う相手なら数多く始末してきたという言葉に偽りはなく、次々と冷静に捌いていく。
「無能が! 脅威なのは【神速】だけだ。【模擬神速】の連続攻撃ぐらいで私が倒せるか!」
もしや、釣られたのは私の方なのか…
先手を取り、優位に立ったつもりが我慢比べに負けて絶体絶命のピンチを招いてしまったのかもしれない。
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