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第7話 人生初の戦闘です

 清水谷は設定をじっくり操作したいと言って席を外し、報音寺はまだ女の人と話をしてる。私は手持ちぶたさになり、ひとり外に出た。

 情報管理局しやくしょに入る前は注意して見なかったけど、よく見れば始まりの場所の周辺というだけあって現実世界にはない店や転送ポートなんかがそこかしこにあった。

 さらによくよくみれば明らかにプレイヤーじゃないNPCもいた。

 なるほど彼らに話しかけて各種クエストなんかを進めていくわけか。

 うん!? そういえばそこかしこにある岩のオブジェ。

 よく見ると人型だ。

 あれはなんなんだろう?

 ちょうどいい、NPCにも話かけてみるか。


 「なんか、ところどころに人間の石像がおいてあるけどあれは何なの?」


 私は手近にいた麦わら帽子をかけたNPCに問いかけた。


「あれは魂が元の世界に帰った異世界人の名残じゃよ。異世界人が元の世界に帰るとああして移し身たる肉体が岩の形となって残るんじゃ。あんた異世界人じゃろ。異世界人なら設定というものを使うとあの石像を大きな木や別のオブジェに代えたりすることができるらしいぞ。まあ、あくまであんたの目に木や別のオブジェとして映るだけで本質が変わるわけではないからお勧めせんがね。うかつに設定を変更すると異世界人の魂がこの地にたどりついた瞬間、いきなり動いてビックリするからのぉ。まあ、モンスターなんかと違って、街中でいきなり襲ってくることがないだけましじゃが…本当にお主らは奇妙な人間じゃな」


 「あの真っ赤な石像はなんなの?」


 「ああっ、最悪だ。あれはアサシンじゃな」


 「アサシンって?」


 「モンスターではなく、同胞である異世界人を殺すことで経験値や金、アイテムを奪っていく異世界人のことじゃ」


 「しかも、石像の全身真っ赤だろじゃろう、あんなの見たことないのう。異世界人が同じ同胞である異世界人殺しを行うと元の世界に帰るとき、写し身の体の中心から赤く染まっていくじゃ。見よ、あいつ、頭の先から爪の先まで真っ赤じゃ、どれほどの同胞をを殺しているのやら…」




◇◆◇




 「さて、準備も整ったことだし、狩りにいくか!」


 情報管理局しやくしょの玄関でボーっと建ってた私に報音寺が声をかけてきた。後ろには清水谷も合流して立っている。


 「報音寺君の武器はなんなの?」


 「オレは銃だよ」


 「まず、レベル5以上所有可能アイテムの【自由入界の護符】を取るんだ。そうすりゃ、第1階層ではどこでもセーブできるからな」


 「最終目標はレベル50だな。第1階層エンカンウント完全阻止能力を手に入れれば、誰かとだべってる際中、突然敵が襲ってくるなんてこともなくなる。まあ、そこまで行けば第1層の敵なんてどの職業でも目じゃないし、残りのレベル上げはプロか開拓組か高レベルの人間用だな。といってもセーブマナーってものもあるからそこは注意してやってくれよ」


 セーブマナー、それはこのゲームの重要な概念のひとつだ。まだ、私のレベルではどこでも自由にセーブなどできない。しかし、レベルを上げて【自由入界の護符】を手に入れればどこでも自由にセーブができる。

 だからといって、店舗の中や他人の敷地でセーブするのはマナー違反だ。セーブすると先程の麦わら帽子のおじさんが言ったように私達の身体は岩のオブジェクトになる。

 そんなものが無秩序に置かれていれば、通行の邪魔だ。

 とりあえず、数日かけて攻略するダンジョンとかに潜る予定はまだない。

 私は原則、自分の家でセーブとログアウトをするつもりだが。


 「福天地区の始まりの場所が情報管理局前の広場だ。戦闘で負けたり、転送で送られてくるのがここだ。目立つ場所だし、迷ったらここでオレにチャットしてくれたら迎えにきてあげるよ」


 報音寺は電話と言ったがもちろん現実世界にある電話でない。セカンドワールドオンラインの中で私達プレイヤーが使うチャットのことである。

 有視界範囲内であれば音声も届くが有視界範囲外であればもちろん声も届かない。

 有視界範囲外で意思相通するための手段が音声通話である。左右どちらの手でもいいので○やら△やら特定の模様を空に描くと設定のウィンドウが表示されるのである。

 そこから各種遷移を繰り返すと相手先が表示される。その相手にキーボードを使ってチャットするのである。

 もちろん上位設定に電話も有り、さらにその先にテレビ電話もあり、その先のさらに先には本物の携帯電話まである。

 携帯電話まであるのは、やはり、人間、固定アイテムがないと妙に不安になるからだろう。

 目に写る携帯電話はデータでしかなく、情報体アバターには標準装備で電話はついているがそれでも物理アイテムを求めてしまう。

 人間本体の機能ではないからだろうか? インプラント技術はもう何年も前に開発されているのだ。さすがに数百年後の未来では違和感が無くなっているのだろうか…

 尚、電話先は現実世界にもリンクし、セカンドワールドオンラインの中から現実世界の人間に電話をすることも可能である。

 しかし、私達はまだログインしたばかりのひよっこである。ゲーム内で携帯電話を機能を買うことも通話料金を払うことも正直キツイ、よってもっともデータ量の少ないチャットとなるわけだ。


 「モンスターは郊外に行けば行くほど多くなるし、山の中なんかにいくとさらに多く強くなるみたいなんだ。まずはここを離れて郊外に行こうか」


 それから、私達は10分ほど山に向かって走っただろうか。

 前方に白い毛皮を纏った熊を発見した。


 「おっ、さっそく熊だ。あれはコールドベアーだ」


 報音寺が熊の正式名称を教えてくれる。


 「じゃあ、2人が前衛、オレが後衛ね」


 目の前には身長2メートル、体重80キロはありそうな重量感のある巨大熊がのそのそと目の前を歩いていた。

 しっかし、リアルだな~

 はっきりいって対峙するだけで相当怖いぞ!

 と考えていたら清水谷が刀を抜いて突っ込んだ。

 ひや~意外に度胸あるな~

 ところが熊のぶん回しが直撃する。きれいに入ったらしく清水谷君の左腕がふっとんだ。

 どうやら部位欠損ダメージが取られたようだ。


 「清水谷君!!!」


 これが現実ではなく、あくまでゲームだと分かってはいたがあまりの迫力に思わず声が出る。

 このまま見ていれば追撃される。

 初陣の相手には強すぎたんじゃないかと後悔しながら私も見様見真似でつっこむ。

 しまった、こんなことなら剣道部にでも入っていればよかったと後悔を抱きながらも刀を振り上げる。

 刀を振り上げると斬撃設定がオンになりコールドベアーの体にはっきりと光の点がうかんでる。

 なるほどこれにそって斬撃を放てばクリティカルがでるのか。

 さすが仮想世界! この刀も傘以下の重さだ。余裕で光点をなぞれる!!

 そう思ったがカーブの縁でわずかにそれる。

 ミスったと脳が認識した瞬間には既にそれた軌跡からでも放てる新しい光点が浮かんでいる。

 これに従って打てば新しい技が打てるってわけか! 

 刀を振り回すなんてチャンバラ初めてだったがシステムアシストによる筋力強化、斬撃強化のおかげできちんとダメージが通り熊コールドベアーが激痛の叫びを上げる。

 おおっ、やるじゃん私! 

 これはくせになるな~などと考えていたら怒り狂った熊が残った左手をぶん回し私の顔面に直撃をくれる。

 直後、足が地面から強制的にはなされ、後方、5メートル程ふっとんだ!

 部位欠損ダメージこそ追わなかったものの、脳震盪状態を取られたようだ。

 移動を命じているのに情報体アバターが動かず、視界もご丁寧に星がまわってやがる。

 やばい! と思った瞬間、報音寺のライフルが火を噴き、熊の脳天に直撃し熊が消失していく。

 

 >獲得経験値10。獲得所持金2シェル。【コールドベアーの爪】を手に入れた。


 メッセージウィンドウが流れる。

 どうやらなんとか勝利したようだ。




◇◆◇




 「いや~びっくりして、反応できなかったよ」


 「最初はそんなもんだって」


 報音寺は責めることなく、フォローしてくれる。


 「ああいう生物系モンスターは腕を斬って脳か心臓かに狙って攻撃すればクリティカルが入るよ。さらになんかかけ声みたいなのを叫ぶとさらに攻撃力が上がるぜ」


 攻略法についてまでレクチャーしてくれる。そういうのは会敵前にして欲しかった。

 けど、こちらも浮き足だってたからどうせ聞いてなかったか。


 「清水谷の攻撃は思い切りはいいけど、動きがザツだね、逆に春日井さんはセンス有るよ。きっと頭の中のイメージがなんの齟齬もなくきれいに操作に現れてるんだよ」


 報音寺先生の戦闘終了後の講評は尚も続いている。

 なんとなくで彼を選んだけど本当に詳しいな。


 「頭の中の攻撃イメージもはっきりできてるんだよ。さらにイメージがノイズなく伝わってる。インフィニットステーションのおかげかな?」


 「けど、あんだけ派手にふっとんだのにほんとに痛みはないんだね。これならビルからとびおりしたくなるよ」


 これ以上、講評を聞くのもめんどい。

 私は実践派なのだ。講評を聞くより、もっと実戦を経験したい。

 話を変えるためにも軽いジョークを交えて返すと報音寺は苦笑いで返した。


 「そりゃ、ほんとに痛覚まで再現されてたら今のは致命傷だよ」


 そして、心配性の報音寺は尚もおせっかいを焼いてくる。

 意外だな。そのあたりの線引もしっかりできそうなのに。 


 「けどHPはしっかり減ってるよ、ポーションかけとこうか?」


 「いや、高価だしいいよ。死んでもたいした損害は無いし」


 「1回死んだら、デスペナルティーで経験値は前回レベルが上がった最初の数値にまで落ちるし、そのレベルが上がるまで獲得経験値が2分の1になってしまうんだよ」


 なぜだろう。口調におかしなところなど一つもない。

 だが、その台詞を言った時の報音寺の目は笑っていなかった。

 その事実だけは優しいオブラートで包めない。

 どれだけ完璧な演技をしようとも自分の経験の核となる部分だけは偽りきれない。

 そんな冷たさを感じた。

 例えるなら微量の毒。

 いや、棘か。

 小さいが確実に私へ痛みを与える行為だった。


 「覚えておいて、春日井さん。このゲームにおける死っていうのは現実世界での死と同じぐらい重いものなんだよ」


 報音寺がいつになく神妙な顔でアドバイスしてくれた。


よし、今日から5月だ!5月は投稿頻度を上げるぞ!

感想等あればお待ちしております。

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