第699話 エミリーは後輩の前で絶対に負けられない戦いを行う④
三栗原の速度に対抗するため、『バスターソード惨式』を捨て【オーラソード】を展開したが現状向こうの方が上手だ。
剣士としての技量は互角だと思うが対人戦闘の経験値の差が如実に出ている。
私は竜を殺すことに生涯を捧げてきた。
三栗原は人を殺すことに生涯を捧げてきた。
その差が出ているだけだ。
技量では負けていない。
そう思いながらも現実では手も足も出ないのが歯がゆい。
こうなるとできることは少ない。
私に残った選択肢は防御を捨て、相討ち覚悟で打ち込むだけだ。
三栗原は回避特化の軽装甲だ。
ヒットした場所によっては一太刀で絶命させられる。
竜を殺すほどの威力はいらない。
故に最速最強の一撃を放つことができれば私の勝ちだ。
三栗原に殺される前に殺す。
それが今の私にできる唯一の生存策だ。
【オーラソード】を上段に構え、精神を集中させる。
狙うは生涯ただ一度だけ成功した【神速】。
小細工は不要。
一気に間合いを詰め、渾身の力を込めて放つ。
しかし、三栗原に躱される。
それも間合いを詰めた時点で、既に距離を取られていた。
違う。今のは【模擬神速】だ。
だから避けられる。
それでも、今まできっちり防御していたのが回避に変わった。
返しの一撃も撃ってこなかった。
回避だけに専念したという感じだった。
やはり、三栗原は神速剣を修めていない。
このまま、【模擬神速】だけでおしきれないものか。
そんな安易な考えが浮かぶとすぐさま三栗原から牽制がとんでくる。
「防御を捨てて、攻撃一本に絞る。それも速度に特化した最速の一撃に賭ける。春日井のNPCはつくづく相手をイライラさせるのが上手いわね。人の心の弱みに上手くつけこんでくる。けれど、そんなものは凡人の考えよ」
なぜかいつも以上に棘がある。
【神速剣の使い手】との敗北経験でもあるのだろうか。
そういえば、【模擬神速】の一撃に対しては迷いなく回避を選んでいた。
「【模擬神速】までは撃てるみたいだけど、その程度を使う達人者級なんてゴロゴロいるわ。どいつもこいつも勘違いしている。剣に速さなんて必要ないのよ。なのに無意味で無謀な挑戦を繰り返す。【模擬神速】と【神速】との間にどれだけの壁があると思っているのよ。剣を振るうのに必要なのは適量な力と知性よ。相手を殺す一撃さえ放てれば、威力も速さも必要ない。敵の首を刈り、敵の心臓を穿つ。そのための、準備の手段として剣は存在する。剣士の剣に誇りはいらない。どんな遅い一撃でもどんな軽い斬撃でも相手を殺せれば問題ない」
前半は賛成だが後半は承伏できかねる。それは剣士の考え方ではなく、暗殺者の考えだ。
剣士の剣には誇りが必要だ。
民のため、己のため、野望のため、人が剣にかける想いは人それぞれだろうがそれでも誇りというものは確かに存在する。
その誇りがあるが故に苦しい戦場という舞台に立っていられるのだ。
おそらく三栗原はその誇りを見失ってしまったのだろう。
でなければ、あれほどの強さを手に入れられるわけがない。
ならば【剣王】として、剣にその身を捧げる者達の王として負けるわけにはいかない。
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