第697話 エミリーは後輩の前で絶対に負けられない戦いを行う②
しかし、致死のダメージを受け改めて思い知ったが三栗原は強い。
突出したストロングポイントこそ持っていないが剣士としては最上級の強さを持っている。
弱点がまるでない。
全能力が平均して高い。
おそらくあれは人が辿りつける限界の強さだ。
このレベルの敵に勝つには…
やはり私も捨てるしかない。
瞳を閉じ大きく息をついて、覚悟を決める。
私は『バスターソード惨式』をあえて放棄した。
流石の三栗原も怪訝な顔をしている。
カスティリヤを相手にした時から薄々感じていたが人型タイプの達人者級と殺るとき『バスターソード惨式』での戦闘は不利だ。
達人者級の高速戦闘についていけないからだ。
どれだけ威力があったところで当たらなければ意味がない。
高位の体術使いが相手でも苦戦したのに今は本職の剣士が相手なのだ。
高速戦闘についていかなければ、勝てるわけがない。
致死のダメージを受けてようやく武器についての考察を始める。
こんな情けない状況を晒しているのは我が流派独特のわけがある。
エクシード流には武器交換の概念が存在しないのだ。
冥竜王抹殺を心に誓いエクシード流を習い始めた者はまず最初に対竜刀を渡される。
それも初心者用の軽いものではない。
500キロもする本物の対竜刀だ。
私の場合は『バスターソード惨式』をいきなり渡された。
師範がその人間の成長限界を見極め、最適な対竜刀を渡すのだ。
普通の流派であれば徐々に刀を重くしていき、重さと扱える技量とのバランスを取る。
だがエクシード流は違う。
ほとんどの者が最初に与えられた剣を一生使うのだ。
そうやって一生をかけて、その剣の使い方を学ぶのだ。
身体を剣に合わせるのではなく、剣に身体を合わせる。
そのぐらいでなければ、冥竜王にダメージを与えることなどできない。
唯一、免許皆伝の【剣王】の称号を得た者だけが武器交換を許されるのだ。
私も【剣王】の称号を得てから随分と経つがそれでも武器交換を行おうとは露とも思わなかった。
そんな理由があって『バスターソード惨式』を手放すことができなかった。
『バスターソード惨式』こそが最強だ。
いや、最強でなくても私にとっては最高だ。
『バスターソード惨式』を放棄することはエクシード流を否定することになる。
長年連れ添ってきた愛刀であるが故に、下らないプライドが邪魔をした。
そんな下らないプライドが得物の交換を許さなかった。
その拘りを今、捨てる。
【剣気】で【オーラソード】を形成。
カスティリヤ戦よりずっと訓練を積んでいた。作成は容易くできる。
問題となるのは強度だ。
三栗原ほどの剣士と戦うとなると『バスターソード惨式』と同じぐらいの強度は欲しい。
強度を維持するには制御に集中する必要がある。
達人者級剣士と斬り結びながら、高度な制御も維持する。
考えただけでゾッとする。
敵や状況に合わせて武器を変える。それは人間として当たり前のことだ。
思考停止の末路が今の状況を生み出している。
この戦闘が終わったら、新しい得物を買いに行こう。
意外と三栗原の持つ【日本刀】というのもいいかもしれない。
反りが非常に美しく強度、威力共に申し分ない。
扱いが難しそうだが、ものにさえしてしまえば使い手の想いと強さの分だけ力を発揮してくれそうだ。
そんなところが『バスターソード惨式』に似ている。
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