第694話 ヨウメイ奮戦す⑩
「せっかく、いい感じにスイッチが入ったってのに、また邪魔をして…あんた誰よ?」
巨剣に吹き飛ばされた三栗原は動じず、誰何の声を上げる。
視線だけで殺せそうなほどの殺気は健在である。
抹殺の対象が私から巨剣の女に映ったようだ。
「エミリー・アブストラクト・エクシード。そうですね、強いて言えば真澄様の親友です」
しかし、突如現れた巨剣の女は三栗原の絶大なる殺気にも動じずマイペースに自己紹介をする。
あの殺気が怖くないのだろうか。
こんな状況でボケをかますとは…
いや、アレは天然なのか?
親友の下りの響きがやけに誇らしげに聞こえた。
「もちろん、親友とは側近よりもワンランク上の存在です。役職的には真澄様のボディーガードと思ってもらって構いません。真澄様の野望を実現する尖兵。真澄様のために命尽きるまで働く魂の奴隷。それが私です」
巨剣の女の自己陶酔型の自己紹介に辟易しながらも観察を続ける。
エミリー・アブストラクト・エクシード。
三栗原の高速剣をあんな巨剣で受け止めたことといい実力は本物のようだ。
これだけの強さを持っていたならどうしてもっと早くからマムルークにいなかったのだ。
親友と言うならもっと早くに駆けつけろ。
戦争はもう始まっているんだぞ。
助けられた恩を棚上げして、心の中で毒気づく。
しかし、その心の中にあるわだかまりが次第に小さくなっていくのも感じる。
最近はお頭級の実力者を見る機会が格段に増えたが、この人はどこか私達と違っているからだ。
品があるというか、深みがあるというか。天然というか。
私は歳の近い女性と接すると共感より反発を覚えるタイプだ。
なのに不思議とこの人に対してはお姉さまと呼びたくなる衝動にかられてしまう。
「もちろん遅参したのには理由があるんですよ、ヨウメイ。なにせ私は戦争の開始前からマムルークにいたんですから。一度、所要でクロサガ王国を出たら不思議な力に遮られ入れなくなったんです。焦りましたよ。真澄様からの呼びかけもありませんでしたし。密国することでクロサガ王国にはなんとか入れましたがマムルークには近づくことすらできません。気を強く持たなければ、マムルークに入りたいという気持ちすら霧散させられますし…どうも【しすてむ】が過干渉したようですね。【くえすと】とやらの影響かもしれません。今も彼らの助けがなければ路頭に迷っていましたよ」
やはり、ナチュラルに心を読んでくるか。
しかも、それが不快にならない。
今の言葉の意味も理解できなかったがこの人が全力を持ってなお、たどりつけなかったということは分かった。
「そうです、援軍に来たのは私一人ではありません。真澄様の徳は天下を揺るがすほどのものなのですから」
「ちっ、正真正銘のNPXCというわけか。めんどくさい」
「そういうあなたは真澄様と同じ【プレイヤー】のようですね。他にも随分と大勢の方がやってきている御様子。異界の人間が泡沫の地にどんな御用なのですか?」
「気持ち悪い。本当に私らのことを【プレイヤー】だと理解しているのか…」
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