第693話 ヨウメイ奮戦す⑨
無言のまま立っているだけなのに敵意をピリピリと感じる。
元々、私を殺す気満々だったのが今や全身全霊をかけて存在を消しにかかっている。
生き延びるために心を揺さぶり、精神のバランスを崩す。
そのために『さらなる挑発』を選んでみたが間違えだったのだろうか。
三栗原が無言でゆらりと動く、【次元斬り】がないと分かっていても剣士として上位の存在だ。
ひとまず間合いを大きくとって…
そう思った時、三栗原の鍔元で何かが光った。
次の瞬間、無様に前のめりに倒れた。
両足が斬られている。
接近・抜刀したことにも気付けなかった。
腕の力でなんとか上半身だけ立て直すと三栗原がすぐ側に立っていた。
「まず、私を殺した時と同じように両足を断った。そのまま跪いていろ。簡単には殺さない。ゆっくりと切り刻んで心を恐怖で満たす…」
せめて、もう一太刀! どんな小さな傷でも残せれば、後に続く者達への道標となる。
そう思ったが唇を狙って蹴り飛ばされる。
「おっと、もう喋るな。不愉快だ。お前が喋っていい言葉は『殺して下さい』という懇願のみだ」
その一言だけで心が絶望で塗りつぶされる。
足は切断こそされていないが骨が断たれている。
皮だけでくっついているような状態だ。全く動かない。
もう回避することも【トラップ】を仕掛けることもできない。
このままジワジワとなぶり殺しにする気だ。
三栗原は再び刀を納刀し、構える。
今度は見える。私にも見えるぐらい剣速が落としてある。
しかし、避けられない。
思わず、恐怖に目をつむる。
だが、いつまでたっても痛みがなかった。
「いけませんね。真澄様第一の側近を名乗るなら、死のその瞬間まで相手の心を煽らねば。あなたの口はまだ動くのでしょう」
瞳を開くと三栗原の刀が巨大な剣によって止められていた。
知識では知っている。対竜刀だ。
竜を倒すために作られた対竜装備。
それを細身の女が軽々と振り回し、三栗原を吹き飛ばす。
「そうすれば、たとえ死んでも敵に苦悩を与える。春日井真澄の部下であるなら、死んだ後でも真澄様に奉公すべきなのです。でなければ、あの方の献身においていかれますよ」
そう軽口を叩く、その女は巨剣を肩に担ぐと女神のような微笑えみを浮かべ私を見る。
対竜刀を鮮やかに使いこなすその技量、その美貌。
対竜戦闘に特化した戦闘術、エクシード流剣王技の使い手。
剣王姫の異名を持つ彼女がようやく来てくれたのか。
「ですが、非力な身でよくやりました。春日井真澄の側近を名乗ることを認めましょう。後のことは私に任せゆっくりと休みなさい」
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