第692話 フェビアンは最も損な役割を務める⑦
【白気劫濁砲】をかいくぐり、空中から勢いをつけて突進。
空中では身動きが取れないので、普段は不用意に跳んだりしない。
今は威力重視だ。
狙うのはもちろん各務原の首元。
異界人は首をかき切ったぐらいでは死にはしないが、それでも人体急所の一つ。
最も効果的なダメージが入る場所だ。
各務原は【白気劫濁砲】を発動中のため動けない。
棒立ちの相手に全体重を乗せて刺し貫く。
ナイフから肉を貫く嫌な感触が伝わってくる。
【白気】の抵抗はない。
思ったより深く刺さった。
これなら、離脱する必要もない。
このまま、首を切り落とせれば俺の勝ちだ。
そう思った瞬間、強烈なバックファイヤが襲う。
【白甲壁】だ。
打倒黒佐賀のために開発した俺が最も苦労し、最高の出来だと確信している技で虚を突かれた。
俺の隙をも突ける攻性防御の特性。
その優秀性を誇るべきか、目の前のチャンスに飛びついてしまった己の迂闊さを呪うべきか。
内心は複雑だ。
使うならもっと威力の強い技へのカウンターの方が有効だし、苦し紛れに使う技でもない。
だが本来の使用用途とは違い使い方をし、危機を脱出した。
イチイチ頭にくる野郎だ。
戦闘センスはないが、その機転は讃えるべきか。
痛みを感じない異界人なら普通は拳を使って迎撃だろう。
心の中で悪態をつく。
攻性防御【白甲壁】がある以上、半端な攻撃は危険だ。
攻撃力が強ければ強いほど、特に物理攻撃には無類の抵抗力を誇る。
また、難易度が上がった。
まったく自分の能力が相手というのは万能でやり辛い。
今のでナイフは折れ、拳にまでダメージが入った。
【白気】を奪われた今、俺に回復の手段はない。
一方、各務原は俺から奪った【白気】で回復を図っている。
こうなると長期戦は不利か。
予定通り短気決戦で仕留めるべきだ。戦況もそれを推奨している。
各務原を倒せば【白気】は戻ってくるだろうが、元の量が帰ってくるかどうかも分からない。
【スキル】を盗んだのであれば、各務原が使った分だけ減少している可能性だってある。
各務原に残量白気がある今がチャンスなのだ。
先程から【白気】を奪われたことでどうしても弱気が入り、長期戦についての算段が働く。
この俺が戦闘中にこうも動揺するとは…
ここまで動揺したのは春日井との一戦以来だ。
やはり、ブランクがあるせいだ。
格下ばかりと戦っていたせいだろう。
ドレフェスとつるんでいた頃の自分であれば、同じ状況でもこうまで動揺することはなかった。
この戦いは自分の戦いの垢を取るという意味でも重要なのかもしれない。
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