第679話 クーリッジは疲れた身体に自ら鞭をうつ②
侵入してきた反応は複数。
一番近い反応はマムルークの最下層へ向かっている。
おそらく食料貯蔵庫だ。
どんな達人も食料がなければ、戦うことなどできない。
敵は長期戦も視野に入れているのか?
いや、こちらの戦術の幅を狭めたいのかもしれない。
食料がなければ、短期決戦か全軍徹底かの二択しか取れない。
また、随分とクレバーな奴が攻めてきた。
僕の他にも侵入者の存在に気付いた人間はいるようだ。
ヨウメイは武器庫の守備に入った。
アイツは僕達の中で肉体的には一番弱い。
早めに撃退し、加勢に行かねば。
マムルークの内の地図は一通り頭に入っている。
最短経路で行けば、こちらの到着の方が早い。
先乗りし、待ち伏せする。
本来であれば、これほどの反応を持つ敵だ。
正々堂々と正面から戦いたい。
しかし、今は手段を選んでいる時間がない。
◇◆◇
来た。痩せ細った大男だ。
背が高いわりに肉がついていない。
枯れ枝のような男だ。
しかし、目に力がみなぎっている。
見るからに只者ではない。
だが、向こうはこちらの存在に気付いていない。
チャンスだ。
【気配断ち】はヨウメイ達の専売特許ではない。
僕だってあれぐらいの【スキル】は容易く使える。
知覚される前に一気に殺る。
『桂林一枝』を大きく振りかぶり、瞬時に間合いを詰める。
完璧に不意をついた形だ。
敵はたった今、僕の存在に気付いた感じだ。
決定的に遅い。
今さら、どんな回避を行っても避けきれるものではない。
体格から見るに僕と同じ回避特化、攻撃重視だ。
つまりダメージさえ、入ればそれほどの難敵ではないはず。
渾身の一撃を叩きこむ。
しかし、直撃の瞬間、自らの身体を霧状に変化させた。
『桂林一枝』は虚しく空を斬る。
魔法使いだったのか!?
僕が驚いていると霧は収束し、人の姿を形成する。
「春日井から聞いていなかったのか? 俺は喜汰方。【吸血鬼】だ」
枯れ枝のような体をした男は堂々と名乗りを上げる。
【吸血鬼】!?
確かに真澄さんの武勇伝で存在は聞いていた…
最も戦いたかった相手の1人だ。
けれど、身体を霧に変えられるなんて聞いていない。
これじゃあ、【物理攻撃完全無効化】と同じじゃないか。
こんな相手に真澄さんはどうやって勝ったんだ…
みるみる戦意が衰えていく。
動悸が高なり、身体が逃亡すべきだと訴えている。
こんな経験始めてだ。
普段は自分より強い敵と相対するとワクワクするのに。
今は戦いたいという気持ちより逃げたいという気持ちの方が強い。
体調は万全でないし、この後、ヨウメイの元にも向かわなければならない。
なにより、物理攻撃の通じない相手に対して一体何ができるというのだ?
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