第666話 春日井真澄VS魔王:都洲河廣晃㉙
都洲河の土手っ腹に大きな穴が空いた。
流石に【高速修復】でも、即時再生は不可能だろう。
邪なる魔王を堕とす聖皇の一撃。
そう解釈されそうだが、実際は都洲河への感謝の一撃だ。
この一撃を持って都洲河を魔王の軛から解放する。
そう勇んではみたが都洲河はプレイヤーだ。
HPをゼロにしなければ、活動は停止できない。
フェビアンのように筋肉硬化で動きを封じられも面倒だ。
都洲河の身体から腕を抜き取り、間合いを取る。
しかし、反応がない。
片膝をついて、沈黙している。
不気味だ。
会心の一撃ではあったが致命の一撃ではない。
あれでHPを削りきったとは到底思えない。
今なら隙だらけだが、攻撃していいのだろうか?
再び【黄金気】と【聖皇理力】を、拳に集束し準備を始める。
「おい」
都洲河が急に立ち上がり声を発した。
びっくりし、拳の集束が霧散する。
やはり卑怯すぎたか。
「俺の負けなのだよ。春日井」
さらりととんでもないことを言ってきた。
「【魔皇紋励起】まで使ってこの体たらくだ。このまま戦闘を続けても制御失敗で自滅する。今さらデスペナなど勘弁なのだよ」
穴の空いた腹をおさえながら、都洲河は普段と変わらない口調で告げる。
これは私の油断を誘う戦術なのだろうか。
それにしては演技が下手くそすぎる。
都洲河は明らかに何枚も切り札を残している雰囲気だった。
なにより、まだ【七天鋼魔挫滅】、【六天白克魔生滅】など必殺技を使ってきていない。
「確かに幾つか切り札はあるがリスクも大きい。それらを使いきってもお前を倒しきるビジョンがまるで湧かない」
私の不信感が伝わったのだろう。
聞いてもいないのに戦闘停止の理由を述べてくる。
どうやら本当に降伏するらしい。
「俺の限界性能よりもお前の対応力の方が上回っている。今は勝てても、直に俺の力を分析し、その対応力で最後には俺を超えてくる。うっとおしい仲間もいることだしな。お前は戦えば戦う程、強くなる。それも負けられない戦いだとその対応力は神がかってくる。だったら、不要な経験値など渡すべきでない」
うん!? これは戦えば、今は勝てるが将来的にはどうなるか分からない。
戦闘経験値を渡すのが惜しいから、ここは敗北を受け入れるってことか!?
こういう場合、最初の約束はどうなるんだ?
私もノリとテンションで言ってるから、そこまで拘るつもりはないが…
「正直、身体も限界だしな…」
苦笑いを浮かべながら我孫子は語る。
「俺の敗北をもって、この戦争を終わりにしよう。我孫子書記長も笑って許してくださるだろう」
最後になにか憑き物が落ちたような晴れやか表情で都洲河はそう言った。
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