第663話 とある魔王の独白④
いずれにせよ、こんな迷いのある状態で戦うのは危険だ。
【魔皇紋励起】の制御に失敗するか、春日井に討たれるかのどちらかしかない。
先程も『望まれし最悪の魔王のローブ』を第二効果を破壊された。
世界に数着しか確認されていない魔王装備の一つ。
その特殊効果ですら春日井には通用しなかった。
つくづく規格外なプレイヤーだ。
『望まれし最悪の魔王のローブ』は俺が持っている唯一の魔王装備だ。
昔、盗賊団のアジトを襲撃した際、偶然手に入れたドロップ品だ。
もう一度、手に入れるのは不可能に近い。
思い入れのある品だし、断腸の思いで使ったのに時間稼ぎにしかならなかった。
ここまできたら、撤退も一つの選択肢かもしれない。
【魔王】のジョブを手に入れてから久しく使っていない作戦行動だがハイランカーなら当然、誰もが持ってる選択肢だ。
我々は自分より強い者、それこそ【神】と戦うこともある。
この選択肢はどれだけ熱くなっても絶対に失念してはならない選択肢だ。
それこそ、A級プレイヤーとハイランカーを分ける概念だと言ってもいい。
ハイランカーを続けるコツとは勝てる戦いを取りこぼさず、負けると予測した戦いからは潔く手を引くことである。
二流のプレイヤーというのはそのあたりが非常に下手だ。
その戦闘にかけた労力をもったいないと考え、勝てない戦いに爆進してしまう。
勝てるかもしれない。もう少しで勝てると自らに発破をかけ、無謀な賭けに打って出てしまう。
傍から見ると丁半博打に自分の全財産を賭けているように見えるのだが当人に自覚がないから尚、悪い。
ハイランカーになりたければ怜悧冷徹に合理的思考を用いて戦闘を処理しなければならない。
熱い魂と冷静な頭脳との同居だ。
そう考える俺ですら、今のように熱くなった戦いの処理というのは面倒だ。
自分自身では正常な判断ができず、無闇に損失を拡大させてしまう。
気付いたら逃げるための体力すら残っておらず、手遅れだったなんていうのはよく聞くケースだ。
余力がある内に撤退について考え、一線を越えたと判断したら全力で逃げるべきなのだ。
さっさと損切りし、また、明日から行われるであろう戦闘に連続で勝利することの方が重要なのだ。
そうやって勝率を稼ぐのだ。
だが、今のように勝利と敗北が目前に見えている状況は本当に迷う。
だからこそ、これまでの戦闘での損失。
これ以降、春日井と戦い続けて発生するであろう損失。
勝算と敗北の可能性。
勝って得られる利益。
全てを総合的に計算し、最も損失の少ない選択肢を選ぶ。
損失の最小化と期待値のプラスを堅持するのだ。
それが俺なりのハイランカーとしての生き方だ。
なんら恥じ入るものではない。
だが、本当にそれでいいのか?
春日井相手にそれをすると自分の中の何かが決定的に壊れる気がする。
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