第660話 とある魔王の独白①
春日井真澄。
全くこれほど意味の分からない女にあったのは始めてなのだよ。
ただ、強いだけの女になら幾度も会った。
それこそ、飾磨巧委員長などは俺よりも強いだろう。
だが、この春日井真澄という女。彼女だけはとらえどころがない。
理解不能という評価が最も正しいか。
アレだけの強さだ。手に入れる過程で普通は何かを諦める。
俺の場合は自由か。
八束学園生徒会執行部の尖兵として本意ではない仕事を幾つもこなしてきた。
先立っての神亀討伐など正にそうだ。
理は神亀にあるのに、自分を殺して生徒会のために戦った。
こうまでして生徒会に尽くすのは俺が人付き合いが苦手なせいである。
そう、俺はあまり人付き合いが得意ではない。
昔から何をやっても人並み以上の結果を残せたがその結果、妙に集団から浮いてしまうのだ。
だからこそ、八束学園というのは理想郷だった。
なにしろ生徒会執行部の要望を満たせば、必要なことは全て執行部の下位組織が処理してくれるのだから。
高度に発展したギブアンドテイクだ。
春日井は勘違いしているが八束学園における生徒会執行部とは冒険者組合のようなものだ。
多くは利害関係の調整。
俺は生徒会執行部に武力を提供し、その代価に苦手な各種、雑用を処理してもらう。
雑用の内容は様々だ。
情報収集、折衝、交渉、各種認可取りの代行。
どれもセカンドワールドオンラインの高位プレイヤーとして生きている限り、手を抜けない重要な要素だ。
八束の生徒であっても戦闘が苦手な者は山ほどいる。
彼らは俺にサービスを提供し、執行部から代価をもらう。
需要と供給の関係だ。
実際、八束に入ってから情報の精度は格段に上がり、装備の質も上がった。
ダンジョンに潜る場合も事前情報は完璧に用意され、イレギュラーに悩まされることも減った。
高価な消費アイテムも適性価格で手に入れることができる。
全てが予定調和でもの足りないと感じることもあるが人はどんな時でも完全な自由になどなれないし、自由を手に入れたとしても俺にはやりたいことなどない。
だったら、ギブアンドテイクを最大限活かし、生徒会執行部の指示に従ったほうがいい。
そのくらいの計算、春日井ならできるだろう。
あれぐらい世渡り上手ならなおさらだ。
なのに生徒会執行部に正面から戦いを挑み、俺との同盟も一方的に切ってきた。
もっとも、春日井にしてみたら、俺との同盟は単なる情報収集の一環だったのかもしれないが。
それでも俺の心は救われた。
誰もが【喫茶MAOU城】は俺の道楽だと決めつけ、まともに手を貸してくれなかったからだ。
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