第６５９話 春日井真澄ＶＳ魔王：都洲河廣晃㉗
迷った時は戦況分析だ。
都洲河の防御。これは【聖皇理力】を手にした今、それほど脅威ではない。
攻撃が入れば都洲河にもダメージを与えることができる。
同時に回復。これも問題ない。
攻撃さえ当たれば【高速修復】では対応できないほどのダメージが入る。
問題なのは都洲河の攻撃と回避。
【聖皇理力】で強化された装甲を抜くほどの攻撃を放ってくるし、なにより私の攻撃が当たらない。
ということは現状、最初の殴り合いの状態に戻ったということか。
絶体絶命の状況にまで追い込まれていると考えていたが思った程、深刻ではなかった。
要は都洲河の【高速修復】の優位がなくなり、私は【黄金気】の効果を無くしつつあるというだけのことだ。
まずは【黄金気】精製を阻害するこのボロ布の効果をなんとかしたいが。
皆のおかげでここまで競った勝負をしているのにこのまま時間切れで敗北なんて死んでも御免だ。
普通の高位プレイヤーなら風や嵐でも起こして、まとめて吹き飛ばすのだろうが…
生憎と私は魔法を一つも覚えていない。
もはや、職業：武闘家といっていい状況だ。
【黄金気】やら【聖皇理力】は使うが戦術のヴァリエーションに乏しく、敵の変化球に酷く弱い。
早い段階で、あらゆる耐性に強い【黄金気】を覚えてしまったが故の弊害だ。
やはり、高位プレイヤーとの戦闘には魔法が必須だ。
この戦争が終わったら絶対に覚えよう。
とりあえず、今はなにか代用できるものは…
そもそも【エネルギー変換】の阻害という上級プレイヤー向けのピンポイントに的を絞った効果だ。
生半可な攻撃では破れないだろう。
手持ちの最大威力の技といえば…
アレしかない。
右手に【黄金気】をチャージ。
【聖皇理力】で出力値をさらに上げ、一気に放出。
【黄金気弾】
圧倒的なエネルギーの奔流が都洲河を襲う。
なんの技巧も入っていない純粋な放出技だ。
当然、都洲河はらくらくと躱す。
だが私の標的は都洲河ではない。
『望まれし最悪の魔王のローブの切れ端』だ。
周囲に散らばっているボロ布に向けて放つ。
さすがにこの出力に耐えきることはできず、ボロ布は吹き飛ぶ。
まだ、余裕がある。
ここで放出を止めず周囲のボロ布をまとめて吹き飛ばす。
意図せず、必殺技のようになった。
【馘首黄金気弾】と名付けよう。
ボロ布はまとめて吹き飛び、【黄金気】の精製も元に戻った。
これで状況が一つ改善された。
【魔王】が相手でも私は負けていないのだ。
右肘の違和感にも慣れてきた。
先程も前に進むことで状況を改善できた。
守っていてもジリ貧だ。
怖れながらも前に進むしかない。
私は都洲河に向かって突進していった。
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