第656話 春日井真澄VS魔王:都洲河廣晃㉔
「そっ…それは…」
私に指摘されてようやく理解できたのだろう。
あの都洲河が口ごもり、反論もできない。
始めて彼の鉄面皮を剥がしたのかもしれない。
「【魔王】のジョブの前提条件に【魔王城】の建設と維持管理というのがあったのかもしれない。けど、それなら形だけでよかったはずでしょう。売上のアップのために新アイデアを試してみたり、従業員の福利厚生に悩み、職場環境の向上についてあんなに真剣に考える必要なかったはずだ。なのに都洲河はそれを求めた。自分に接客の才能が無いって分かってても必死になっていい店を作ろうとした。それは理性を超えた先にある欲求でしょう。自分がしたいからする。自分がほしいから求める。私と同じじゃん」
そう都洲河の【喫茶MAOU城】にかける情熱は本物だった。
あれが【魔王】のジョブを維持するための必要な措置などと言って、額面通り信じる者など皆無だろう。
彼は確かに【店舗経営】を楽しんでいた。
それは理を超えた、彼の嫌う非合理な行動だ。
「…」
「【店舗経営】と【領地経営】の違いはあるかもしれない。けど、根っこのところでは同じだよ。経営者がどれだけ情熱を持って行動するか? その熱意の量の差が結果となって現れてくる。それを一番、分かってるのは都洲河でしょう」
「…なるほどな。レベルと技術で上回る俺がなぜ、こうも苦戦しているのか疑問だったが。ようやく分かったのだよ。ステータスと技術で圧倒しているのは俺だ。春日井の心さえ折れば、すぐに決着がつくと思ったが、これは見込み違いだったな。全くつまらないことを聞いた。反省するのだよ。春日井の心を折ることは誰にも不可能。いまさらながら、それがよく分かったのだよ。理解していなかったのは俺の方なのだよ。自分が何と戦っていたか。それが分かっていれば、このような無様をさらすこともなかったのに…だが、勝負まで譲るつもりはないのだよ。持てる力の全てを使ってお前を倒そう」
そう言うと都洲河の【気】がさらに膨らんでいくのを感じる。
やはり、まだ上があったのか。
さしずめ【魔王の第二形態】といったところか。
これまでなんの役に立っているのか分からなかった『望まれし最悪の魔王のローブ』が大きく破れ、端から布切れが拡散していく。
露わになった地肌には、なにやら文様のようなものが怪しく光っている。
見るからに出力アップをしていそうだ。
ついに切り札を引っ張りだせた。
これまでのクレバーな戦い方を捨て、一気に勝負をかける気だ。
読んで頂きありがとうございました。明日の投稿もなんとか頑張ります。
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