第655話 春日井真澄VS魔王:都洲河廣晃㉓
「そのモチベーションが理解できないのだよ。あまりにも分が悪すぎる。レートが狂っている。賭けにすらなっていない。イカサマの賭場に参加しているようなものなのだよ。画鋲を投擲して100メートル先の針の穴に命中させるようなものなのだよ。そんな倍率でどうしてそこまで自分を犠牲にできる」
吐き捨てるような口調で都洲河は言葉を絞る。
おぞましいものを見るような目で私と対峙している。
一切、理解できない。そんな拒否感を露わにしていた。
私にしてみれば不思議だった。
だって、都洲河はその答えを既に持っていたからだ。
「なるほど、そういうことか…」
答えが分かれば、自然に笑みがこぼれる。
対して都洲河は挑発されたと思い込んだようだ。
表情がさらに険しくなる。
「なにがおかしいのだよ、春日井」
苛立ちを隠すことなく、私に詰問してくる。
「いや、さっきの問いの答えだよ。どれだけ頭がよくても、自分のことというのは意外と分からないものなんだなと思ってね」
息を整え、じっと都洲河の目を見つめ私は語り出す。
「倍率の高さ、荒唐無稽さ、不可能要求、そんなもの関係ないんだ。必要に迫られたからやる。やらなきゃいけないからやっている。それだけだよ。自分の大切なものが壊れようとしている。理性で考えれば、崩壊を止める手立てはない。さっさと損切りしてしまったほうが傷が浅くすむ。そんなことは重々分かっている。けれど、あまりにも大切なものだから。心の底から大切だと思っているから。だから採算度外視で助けようとする。それだけだけのことなんだよ」
私の答えに納得できないのだろう。
都洲河の表情は晴れない。
それでも、ちゃちゃを入れず黙って聞いてくれている。
「さっきの私が先で民が後ってのも方便だね。間違ってはいないけど、本音じゃない。私にとってダーダネルス・ガリポリ領は何物にも代えがたい価値を持つ領地だ。あそこで色んなことを学んだ。だから、守りたい。ダーダネルス・ガリポリ領はクロサガ王国の一部だ。私の領地だけ守って、クロサガ王国が滅びては領地の維持ができない。だから、クロサガ王国も守りたい。結局、全部、私のエゴなんだよ」
私は都洲河の思っているような聖人君主ではない。
他人のために戦っているわけではなく、あくまで自分のために戦っている。
しかし、同時に自分のために戦うことが他人のためにもなると理解もしている。
それを都洲河は勘違いしているのだ。
「けれど、それは都洲河も同じだろう。【喫茶MAOU城】のために見ず知らずの私に頭を下げてきたじゃん。あれだって【魔王】のジョブを維持するために、頭を下げたわけじゃなく、君がそうしたいからそうしたんだろう。ちっとも合理的じゃないじゃん」
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