第642話 春日井真澄VS魔王:都洲河廣晃⑩
フェビアンの言葉を聞いたクーリッジは弱音を吐くこともなく黙って立ち上がる。
気丈にも笑ってみせた。
何度も思うが、この年頃の男の子は本当に成長が早い。
他人の成長速度の凄まじさを間近で見せられると焦りが出てくる。
自分は彼らの上に立つに相応しい人間なのかと?
そんなことを考えているとフェビアンの方からドサリと音がした。
振り返るとフェビアンが尻もちをついて倒れていた。
どうやら、フェビアンも限界だったようだ。
自然と笑みがこぼれてくる。
フェビアンも苦笑いを浮かべていた。
気付けば、3人で大爆笑していた。
「盛り上がっているところ悪いのだが、俺はまだ負けてないのだよ」
突如、背後から冷水を浴びせられる。
3人とも凍りつく。
振り返った先に立っていたのは都洲河だった。
とっさに都洲河の死体を確認すると消失していた。
目の前に立つ都洲河は生命力にあふれている。
頭部に損傷はまるで見られない。
それどころか、衣類の傷、汚れまで完璧に修復されていた。
どんなマジックを使ったというのだ。
「そんな、頭部を破壊されて生きている生物が存在するなんて…」
クーリッジが思わず愚痴っていた。
私も同じ想いだ。
あの攻撃は確実に入った。【気】の消失も確認した。死体の確認もした。
偽装のわけがない。
「おそろしく見事な一撃だったのだよ。威力だけでなく、タイミングが。その結果、俺は確かに一度、死んだのだよ。しかし、俺の死がトリガーとなって『天地冥殺』が発動。『天地冥殺』は身代わりアイテムだ。効果は致命のダメージを喰らった場合、戦闘開始前の状態にまで時間遡行を行う。なかなかのレアアイテムなのだよ。効果が発揮されるまでタイムラグがあるが、こうして立っているわけだよ。まあ、春日井を相手に代償無しで勝てるなど端から思っていないのだよ」
流石は【魔王】。持っている財貨もアイテムも桁違いのものばかりというわけか。
これで仕切り直しか。
向こうはHPMP全回復。
こちらはフェビアンもクーリッジも完全にガス欠。実質、私1人での戦闘だ。
私だって余力があるかと問われれば、全くないと返すしかない。
連続で大技を使いすぎたのだ。
随分と絶望的な状況だ。
だが、それはマムルークに単身で攻めてきた都洲河だって同じ条件だったのだ。
多数を相手にする不利を承知しながら攻めてきた。
ヨウメイの言う通りマムルークの奥深くで待っていたら都洲河はさらなるダメージを負っていただろう。
ここにきてようやく、シンプルなタイマンになったと思えば、少し気持ちに余裕が出てきた。
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