第64話 仮面の男は語る禁忌の知識の一部について
私は迷った。
いや、悩んだといったほうが正確か。
彼女にこの世界が我々人類が創造したゲームだ。
お前はそのNPCに過ぎないと伝えるべきか。
『階層』と『大陸』の表現の仕方で分ったことだが今まで自動翻訳のおかげでNPCとプレイヤーの認識の違いや齟齬が解消されていると思っていたがそうではなかったのだ。
全てのNPCがそうであるとは限らないが少なくともエミリーには確かな人格がある。
そして彼女は物事を正確に理解できる聡明な女性だ。
であれば、理解できる、できないは横において私の知っている知識を正確に話したほうが良いのではないか。
ここで彼女に真実を話さないのは彼女の人格に失礼なのではないか。
ここで彼女に真実を話さなければ友人と名乗ることはできないのではないか。
私は自分を奮い立たせ、言葉を絞りだした。
「あのね、エミリー。信じられないかもしれないけど、この世界は…」
「そこまでだ。異界人。それ以上を語ることはこのオレが許さん」
突如、黒仮面をかぶった男が乱入してきた。
いつからそこにいたのか!?
いや、ずっとそこにいたような感覚すら感じる妙な存在感であった。
「何者です、お前は!?」
「お前もだ。エミリー・アブストラクト・エクシード。この先は禁忌の知識の一部だ。お前はまだ資格を得ておらん。只人の身でそれ以上の知識を欲すると発狂するぞ」
「なっ!?」
「とはいえ、禁忌の知識の探求者…やはりこのぐらいの威嚇で引き下がるほど弱い人間ではないか、ではこれならどうだ?」
「えっ、神託がおりてきました。今後、二度と禁忌の知識を欲することなかれと。さらにもう一つ、今後、二度とこの世界の成り立ちについて異界人に問うことを禁じると」
信じられないものを見せられたせいかエミリーはもはや放心状態になっていた。
「なぜ、神託が乱発されているのですか!? このタイミングで神託が下りてくるということはあなたが神託を下ろしたとでもいうのですか!? そもそも神託が乱発されること自体不自然です。そもそも神託とはなんなのかですか?」
もはや、常軌を逸したような表情でエミリーが自ら問ういていた。
「ふむ、逆効果だったか、神託に対する疑問符まで出せるとは…普通の人間は神託には無条件に信仰するのだが。やはり、かなりの資格者か。ここまでのレベルにあるものを異界人の気まぐれで無にするのは惜しい、ここは最近仕入れた裏技を使うか…」
黒仮面の男もなにやら、ぶつぶつ独り言を言っている。
私は黒仮面の男を実力で排除すべきなのか、それともエミリーの手を引いて逃げるべきなのか迷った。
「さて、あのペテン師のお膳立てだがうまく作用するかどうか、これで作動しなければとんだ道化だ」
私が判断に迷っていると黒仮面の男が独り、話を進めていく。
「異界人、最後に1つ言っておく。彼女のためを思うならこの一件からは手を引いてくれ。壊れかけの人形ならまだ直しが効くが壊れてしまった人形を直すことは誰にもできんだろう」
次の瞬間、黒仮面の男が手で呪印を組み、叫んだ。
「ピンポイントエリア停電開始、目標福天市」
黒仮面の男がそう言葉を発すると、突然、私は現実世界に戻っていた。
ぐっ、なにが起きた????
いや、インフィニットステーションの電源が落ちたのだ。
周りを見れば部屋の中の電化製品が全滅し窓の外を見れば真っ暗だ。電灯も全て消えているくそ、ネットにつながらないから状況が分らん。
あの黒仮面が言ったとおり本当に福天市で広域停電を発生させたのか!?
私は残ったバッテリーや予備バッテリーでなんとかログインしようとしたがダメだった。
突然の事態にアクセスが集中しサーバーがダウンしたのか!?
私がなんとかログインできないかと悪戦苦闘していると外から街頭車の声が聞こえる。
「ただいま、福天市でシステムエラーによる大規模な停電が発生しております。復旧まで6時間を予定しております。いましばらく、お待ち下さい。繰り返します~」
台風などの停電時に使われるローカルな方法で告知が行われていた。これは個人の力ではどうにもならんか。
再ログインまで6時間か、これは生死を分ける6時間になるぞ…
読んでいただきありがとうございました。12時投稿すると宣言していたのにこんな時間になってしまいました、申し訳ありません。やはり、ストックがあると油断してしまいます。さて、明日の投稿ですが12時から23時ぐらいの間でいきたいと思います。よろしくお願いします。ブックマーク、感想、評価、メッセージなどあればまたよろしくお願いします。




