第632話 魔王降臨⑥
「だが、前にも言ったはずだ。俺は行動の結果でしか他人を評価しないのだよ。口だけなら、なんとでも言える。俺の考えを変えたいなら、まずは俺を倒してみるのだよ」
「ここまでつきあっておいて、私の評価がまだ、口だけ人間というのは悲しいわね。けれど、直接対決で白黒つけるってのは分かりやすいわ。海老名へのトドメを邪魔された恨みもあるしね」
「恨みというなら、春日井に振り回されっぱなしなのはコチラの方なのだよ。お前に出会って俺の価値観は大きく修正された。そろそろ、収支をチャラにさせてもらうのだよ」
都洲河の殺気が猛烈に膨らんでいく。
同時に【魔王の瘴気】もさらに充満していく。
【魔王】が本気で殺意を露わにすれば、生物は皆、死ぬということか。
現にヨウメイはまともに【魔王の瘴気】を浴び、青ざめている。
一方、クーリッジは【白気】で上手く防御している。
「クーリッジ、ヨウメイが死にそうだ。一度、マムルークまで連れて帰って」
「けど、真澄さんを1人で戦わせるわけには…」
やはり、男の子は成長が早い。
自分の戦いたいという気持ちより、私の身を案じてくれとは…
少しずつだが着実に成長してるなクーリッジ。
「このままだと流れ弾で死んじゃうのよ。彼女の頭脳は長期戦になった時、絶対に必要なのよ。これは命令よ」
「阿呆か、帰るぐらいなら1人でできる。お前の最初の判断が正しい。私のことなんかどうでもいい。情に流されるな。お前は命を賭けて真澄様の手助けをしろ。私は自力で脱出できる」
青ざめた顔のまま、ヨウメイは抗弁してくる。
どこかからハンカチを出し、口元を押さえている。
しかし、【魔王の瘴気】の影響でまともに音声すら作れていない。
「その命令は却下。ヨウメイは死んでいい人間じゃない。クーリッジ、いいから早く連れていって」
「駄目だ、クーリッジ。優先順位を考えろ。自分の頭で考えるんだ。私が死んでも直ちに戦局への影響は発生しない。しかし、真澄様が死んだらそこで戦争は終わるんだぞ。命の価値は平等ではない。一人の死が万人に影響を与えることもある。現に真澄様が死ねば、お前の夢もここで終わるんだぞ」
【魔王の瘴気】の影響で相当、苦しいはずなのにヨウメイの頭は高速回転している。
つくづくこんなところでうっかり死ぬべき人間ではないと思い知らされる。
「大丈夫よ、クーリッジ。あなたの分も残しておくから。幸か不幸か、短気決戦は不可能よ。あなたが帰ってくるまでに終わらせそうにはないし、簡単に殺られるわけでもない。私の防御力は知ってるでしょう? 数分程度なら1人で十分。戦場で判断に迷うと大勢死ぬわよ。迷った時は上位者の判断に従う。それが原則よ。さあ、行きなさい」
あえて、普段使わない優しい声音でクーリッジを説得する。
この声音が効いたのだろうか。
クーリッジはヨウメイを担いで行ってくれた。
「阿呆か~その最上位者が死にそうなんだぞ~少しは頭を使え~」
ヨウメイの恨み節がここまで聞こえる。
いい子ばかりが私の下に集まる。
彼らのためにも死ぬわけにはいかない。
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