第627話 魔王降臨①
これ以上、伝令に尋ねても埒があかない。
直接、行った方が早いか。
私が会議室から飛び出すと皆、何も言わず追従してくれる。
フットワークの軽い幹部達だ。
わりと真剣に走っているが、皆、平気な顔をしてついてくる。
頼もしい奴らだ。
唯一、ヨウメイだけが遅れている。
誰も、それを助けない。
チームワークに不安を感じるぜ。
いつもの城壁にたどり着くと、そこは阿鼻叫喚の地獄だった。
見張りの兵達が皆、苦しそうにうめいていた。
皆、敵兵にやられたのだろう。
外傷がまるでなく、敵兵を見ただけで混乱状態になったのだ。
一体、どんな奴が…
城壁の外を見ると1人の男が静々とこちらに向かって歩いていた。
皆、彼を見ただけで恐慌状態に陥っている。
瞳は血のような緋色。一切の無駄を削ぎ落とした肉体。佇まいに隙はなく、視線だけで他人を射殺すことができそうな風格。
間違いなく私のよく知る【魔王】都洲川だった。
八束の制服の上に見慣れぬローブのようなものを着込んでいる。
それが一層、都洲河の力を引き立てている。
あれはおそらく、防具か武器だ。
普段、無手の都洲河があんな格好で来たということは最強装備でやって来たということか。
「あれが敵兵か…単騎で乗り込んで来やがったからどんな馬鹿かと思ったが、納得の強さだな…見ているだけで底抜けの恐怖を感じる。あれが【魔王】か…ありゃ、勝てんぞ…」
皆が沈黙する中、唯一、言葉を発することができたのはディズレーリだった。
百戦錬磨のディズレーリまでもが震えている。
しかし、私にはそこまでの精神的影響はない。
おそらく、これは【スキル】だ。
【高速修復】に並ぶ【魔王】の【固有スキル】なのだろう。
効果は【魔王】を直視した者に恐怖と混乱を与えるといった感じか。
ディズレーリには憎まれ口を叩く余裕がある。
他のメンバーも、それほど大きな変化はない。
多分、低レベルの者にしか効かないのだろう。
大軍を相手にする時にはひどく便利な【スキル】だ。
できれば、自分が味方の時に使ってほしかったが…
「はあ、はあ、はあ、なるほど…あれが【魔王】ですか」
やっとヨウメイが追いついてきた。
意外にもそんなにレベルの高くないヨウメイには効果がない。
【かしこさ】が高いせいだろうか?
直近で死線を超えた経験があるせいだろうか?
むしろ、息を整える方に苦労している。
必死に走りすぎなのだ。
「最強の敵がノコノコ1人でやってきたのには僥倖です。早速、死んでもらいましょうか」
ヨウメイはそう言ってボタンのようなものを押すと破裂音が聞こえた。
次の瞬間、都洲川を巻き込むような位置で土砂崩れが発生した。
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