第623話 春日井真澄は雨の中、立ってヨウメイの帰りを待つ②
思えば大要塞マムルークに入る前、大きな地響きのようなものを聞いた。
たぶん、山崩れだ。
発生場所もヨウメイと別れたエリア付近だった。
おそらくヨウメイと三栗原の戦闘で何かが起きたのだろう。
【次元斬り】を持つ三栗原が山崩れなんて危険な行為を侵すとは考えにくい。
やったのはヨウメイだろう。
山を魔改造したなんて言ってたがあれはやり過ぎだ。
下手をすれば死んでしまう。
もしかして、相討ち覚悟だったのだろうか。
やはり、動くならあの時だったのかもしれない。
こんな場所で待っていたとしても自己満足だ。
【聖皇式理力探知】を使えば、位置の特定は容易い。
やるか!?
気を入れるとグラッドストンとディズレーリの視線が一層鋭くなる。
2人を振りほどいてこの大要塞から出るのは至難の業だな。
戦争前に内輪揉めしている場合でもないし…
おまけに今回はフェビアンまで止める気だ。
だが、ここで諦めれば後日、さらなる後悔が私を苛むかもしれない。
昔のゲームのように壁を叩けば音が出る。
直前に最良の選択肢のためのヒントが提示されている。
そんな仕様であれば、どれほど楽であったか。
迷った時のヒントなんてこのゲームには存在しない。
セカンドワールドオンラインは現実の延長そのものだ。
何が最良の行動か?
そんなものは終わってみなければ分からない。
今ある情報で最善とは何かを判断するしかない。
私達にできるのは常に最善とは何かを問い続け、その理念の元、行動するだけだ。
戦争を1人の死傷者も出すことなく、終わらせることができるか?
できないだろう。
1人の兵士を助けるために幹部が自ら動くのは正しいのか?
正しくないだろう。
自分の知り合いを助け、それ以外を見捨てるのはえこひいきではないのか?
全くその通りだ。
私が動いてはいけない理由は山のようにある。
だが、そんなのクソ食らえだ。
私が助けたいから助ける。動きたいから動く。
理由はそれで十分だ。
ようやく心は決まった。
行くか。
そう決心したとき、大要塞マムルークの前に人影が現れた。
息も絶え絶えにここまでやってきたのだろう。扉を叩くこともなく、倒れた。
私は弾かれたように城壁から飛び降りる。
皆の静止の声や怒号が飛び交うが全て無視。
一番に駆けつけた私は倒れた少女をそのまま抱き起こす。
これが帝国の作戦なら間違いなく私は死ぬが、そんなの関係ない。
抱き起こした少女はヨウメイだった。
「任務完了です、真澄様。次元斬り剣士は土砂の下です…」
不敵な笑みでヨウメイはそう告げた。
「ご苦労様、ヨウメイ。これからも頼むね」
私のその言葉を聞くとヨウメイは安心したように目を閉じた。
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