第618話 次元斬り剣士の焦燥④
ヨウメイが突っ込んでくる。
もはや、慢心はない。最強の技で一気に勝負をつける。
通常は自分が次元斬りに巻き込まれるのを防ぐため、威力をかなりセーブしている。
それを止め、全力での一撃。
納刀状態から真一文字に放たれた一閃は視界の全ての次元を斬る。
【帯水次元斬り】
回避も防御も不可能な全方位攻撃。
あまりに強烈な一撃であるため、制御が追いつかない。
制御に失敗すれば自分が次元の隙間に入り込み死ぬ。
なるべく、遠くで発動させるのが成功のコツだ。
正直、身に余る技である。斬った感触も残らないので技としてはまだまだ完成していない。
だが、あのタイミング。
空中から何かしようとしていたようだが、どの方向に回避しても死は免れない。
必殺必中のタイミングを図るため、あえてギリギリまで発動を我慢した。
たかが低レベルのNPCに対しては過ぎた奥義だったが、確実に仕留めた。
超高速演算型NPCとの戦闘はまあ、役に立った。
次からはもっと早く看破できるだろう。
無限収納に『朦朧次元刀』を格納し、普段使っている『和泉守兼定・改』を装備する。
『朦朧次元刀』は強度がまるでない。
太刀筋が悪いだけで折れるし、リンゴ程度の硬さの物体を側面から投げつけられただけで折れる。
愛刀ではあるがここぞという時しか使えない。
その点、『和泉守兼定・改』は雑食だ。
メンテも不要だし、乱暴に扱っても物怖じしない。
コイツは悪食なので気が楽なのである。
春日井を追って1人で追撃は流石に危険か。
左腕も壊れたことだし、まずは治療だな。
この程度の欠損、回復アイテムですぐに治るがもったいない。
これから戦争なのだ。
私達が使うような希少な回復アイテムは値が上がるかもしれない。
一度、ホームに帰って治してもらった方が安いし確実か。
そんなことを思った瞬間、左脚に違和感が!
左脚が太腿からまるまる欠損している。
そして、視線の先にはやたら柄の長いナイフを持ったヨウメイが…
馬鹿な!? 【帯水次元斬り】をかわしたというのか!?
それに何故、ダメージを入れられるまで気付かなかった!?
そして、何よりおかしいのがヨウメイが全力で戦場から離れようとしていることだ。
振り向きもせず、全力で逃げている。
ヒット&アウェイが決まったからといっても私はまだ、死んでいない。
この程度の欠損、すぐに治せる。
勝利を諦め、逃走に切り替えたのか?
だとしたら、【帯水次元斬り】を回避した際、そのまま逃げればよかったはずだ。
わざわざ危険を犯して私の左脚にダメージを入れたのはどうしてだ?
疑問をよそに私は左脚を失ったことでバランスを崩し、その場に倒れ込んだ。
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