第615話 次元斬り使いの焦燥①
おかしい。スペック的には圧倒しているのになぜ瞬殺できない。
まったく、イライラする。
今も下手くそなフェイントを混ぜて接近しているが、あれは演技なのか?
セカンドワールドオンラインにログインして約5年。レベルが遙か格下のNPCにここまで手間取るなんて始めてだ。
全く同じレベルのNPCとプレイヤーが戦った場合、勝つのは常にプレイヤーだ。
そのように設定されているし、検証もされている。
それでも私がこうして勝てないのは【気】の他に、まだ隠しパラメーターがあるからなのだろうか?
苦しまぎれの思いつきだったがそんな気がしてきた。
きっとそうに違いない。
解析されていない設定、パラメーター、裏技など星の数ほど存在する。
そうでなければ、レベル25の【盗賊】1匹程度になぜこうも手間取る。
私はレベル320の【次元斬り使い】なんだぞ。
この破格の【スキル】を修得したことにより八束学園にも入学できた。
今の代が卒業したら生徒会の仕事も入ってくる。
ゆくゆくは何かしらのポストも与えられるだろう。
その私の栄光の道をただのNPCに邪魔をされている。
春日井真澄。あの女に出会ってから全てがおかしくなった。
あの時、あの女が私達にからんでこなければ。
海老名の挑発など受け流せばよかったのだ。
おかげで私まで巻き込まれ、都洲河君に無様な敗北を目撃された。
春日井はその大金星を利用し、都洲河君にとりいった。
結果から見れば大したかませだよ、私達は。
相手は魔王様だ。完全に玉の輿狙いじゃないか。
いかん、いかん。
落ち着け、私。
焦りは剣を鈍らせる。侮りは隙を生む。
まず、敵の観察。名前はヨウメイ。
凡庸な名前だ。
これをただのNPCだと思うのはもう、やめよう。
セカンドワールドオンラインはゲームとしての完成形だ。
当然、完成するまでには様々な過去作品の長所を取り入れている。
リニアモーターが鉄道の技術の発展系であるようにセカンドワールドオンラインも過去ゲームの発展系だ。
昔のゲームにはNPCや使い魔、ペットと協力してプレイするというものもあったと聞く。
それらNPCのスペックは単純なレベルにだけ依存していたわけではなく、忠誠度、親愛度、お供レベルなど様々な変数によって変化していたという。
ヨウメイもそれらの変数の影響で、地力が上がっているのだろう。
変数のトリガーはおそらく春日井。
春日井のあのアンバランスさといい、ヨウメイの変数の影響といい、プレイヤーキルマイスターはひょっとして公開されていないゲームシステムの幾つかを解明したのかもしれない。
プレイヤーキルマイスターと泣かない乙女とは兄弟という話もある。
独自の裏技を知っていてもなんらおかしな点はない。
今のヨウメイは超高演算型のNPCに近い。
そう考えれば、私の苦戦にも納得がいく。
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