第613話 トラップ使いVS次元斬り剣士⑤
勝つのではなく、逃げる。それも達人者級が相手だと一苦労だ。
本来、スピード強化の【青気】を持ってる私は、逃走に関してはエキスパートだ。
ヨーイドンで走っても普通の相手なら、そのままちぎれる。
しかし、【青気】で強化しても三栗原との身体能力はまるで埋まっていない。
そのぐらいの三栗原の身体能力は高いのだ。
並走しても振りきれないだろう。
しかも、三栗原は遠距離攻撃もを持っている。
これまで路傍の石程度にしか思っていなかっただろうが、左腕を吹き飛ばしたことからしっかり恨みも買っている。
逃げるのも命賭けだ。
一番成功率が高いのは、攻撃がくるぞと構えさせておきそのタイムラグを利用して逃げることか。
しかし、どういう仕組なのか『爆煙の竹筒』も効果が薄かった。
他の目眩まし系も効果が低いかもしれない。
最悪なのは無防備な背中を後ろから斬られることだ。
千日手に持っていくという気迫が時間稼ぎに繋がった。
気持ちで負けるわけにはいかない。
殺すつもりで挑み、逃走を成功させる。
まずは『爆煙の竹筒』で視界を封じる。
そうして、間合いを【次元斬り】が届かないギリギリまで取る。
三栗原の遠距離攻撃が来た。
巨大なかまいたちが飛んでくる。
周囲の木々に当たっているのにまるで威力が落ちていない。
だが、派手な音のせいで来るのがまるわかりだ。
なんとか避けられる。
やはり、私の位置を大まかにだが捉えている。
そう簡単には逃げられない。
まきびしを投げ、僅かながらの嫌がらせをしつつ、さらに距離をあける。
距離を取るとかまいたちが連続で何本も飛んでくる。
周囲の木を利用して3次元的な回避を断行。
私は遠距離攻撃を持っていない。
接近戦が不可能ならこうやって距離を稼ぐしかない。
向こうもそれを理解しているのだろう。
煙幕がはれ、中からゆっくりとした足取りで三栗原が出てくる。
その顔は薄く笑っており、とても逃がしてくれそうにはない。
三栗原の身体能力なら、一瞬で間合いを詰め、私の首を落とすことができる。
そうであるにもかかわらず、あえてそれをしない。
まるで小動物の虐待を楽しんでいる様子だ。
私の攻撃をひとつずつ丁寧に潰し、絶望に染めていく。
私の苦痛が三栗原に取っての喜びなのだ。
趣味の悪い。
異界人というのは皆、心に狂気を飼っているのだろうか。
真澄様のあのバイタリティーも狂気の亜種なのかもしれない。
不敬なことを考え、気持ちを整える。
だが、なんとか三栗原を目的のポイントまで誘導できた。
私はただ逃げていたわけではない。
勝つために逃げていたのだ。
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