第610話 トラップ使いVS次元斬り剣士②
「けれど、どうして戦場でNPCが私の前に立てるかしら? レベル差がありすぎるとNPCはプレイヤーの前にすら立てないのだけど。戦場のフラグがきちんと立ってないのかしら? まあ、どのみち私に一手損させたからには生かすつもりはないけど…」
三栗原は意味不明な発言をしている。
達人者級相手にタイマンをはるのはこれで2度目。
クーリッジと違うのは明確な敵意がそこにあるということだ。
本能が全力で逃げろと警告してくる。あれは絶対に勝てない類の存在だ。
カチカチと歯ぎしりが止まらない。
心の奥底からの恐怖だ。あまりに強いため、心臓に痛みすら感じる。
達人者級の敵意というものがココまで心理的負担をかけるとは。
先程、私のスキルを小馬鹿にされた不快感すら、頭から消えている。
いや、恐怖に塗りつぶされている。
窮した私は自分に『戦意高揚の竹筒』を使う。
あまり薬剤に頼りたくないが、身体が動かなければどうせ死ぬ。
適量の3倍ぐらいを一度に使い、なんとか精神を立て直す。
敵を毒殺することもある私は当然、薬の扱いにも長けている。
毒殺がメインなので治すのは苦手だ。
容量のコントロールが難しいのだ。
毒を作るときは多め多めを意識して作れば失敗しない。
失敗しても強すぎる毒ができるぐらいだ。
思わぬところで、不完全な知識が役に立った。
今度から真剣に勉強しよう。
おかげで心が一瞬、凪を打った。
頭から雑念が消え、明瞭に思考が回る。
重要なのは時間稼ぎ。そのためには直撃を喰らわない。
攻撃よりも回避優先。命が続く限り、回避と攻撃を続け時間を稼ぐ。
一切、挑発してないが既に向こうは挑発状態。私を殺さない限り、先には進まないだろう。
だとすれば全てが計画通りだ。
私は何一つ間違っていない。
まずはトークで時間を稼ぐか?
と思ったら、いきなり来た【次元斬り】だ。
なんの工夫もなく、正面から刀を振り下ろしてきた。
全ての【青気】を脚に集中させ、とっさに右後方に回避する。
当てずっぽうで回避したが、私の立っていた場所が地面ごと削り取られる。
まずは攻撃範囲の確認をする。
【次元斬り】が真に万能であれば、一振りで全てが終わる。
しかし、そういう話は一切聞かない。必ず攻撃範囲があるはずだ。
おそらく最大でもヒト一人分ぐらいの大きさしか次元を斬ることはできないはず。
さらに斬れる範囲も本人を中心に10メートル圏内ぐらいなのではないか。
それ以上の対象を斬る場合は三栗浜が移動する必要が出てくる。
この仮説が間違っている場合は最初の一手で死んでいるが…なんとか賭けに勝った。
三栗原が私が移動した分だけ、間合いを詰め、二発目の次元斬りを放つ。
右後方に跳んだのは三栗原が右利きのせいだ。
私が移動した位置を攻撃するには関節の限界があるせいで、ワンテンポだけ遅れる。
回避に全リソースを注ぎ込んでいる今の私なら、その僅かな隙を突いて移動を完了することができる。
読んで頂きありがとうございました。明日の投稿もなんとか頑張ります。
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