第606話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あの方のことは真澄様と呼べ⑪
その後、私は山から一歩も動かずトラップを作り続けた。
大軍が攻めてくることを想定し、指揮を下げるえげつないものばかり用意した。
食事も、全てアジトから運んでもらい、私は山にこもりっきりだ。
その間、一度、コ・エンブから報告があった。
何でも大要塞マムルークは【フォリー・フィリクション・フロック】を快く受け入れてくれたそうだ。
既に部隊運用の訓練にも入っているとのことだ。
もはや、アジトには偵察用の人員しか残っておらず、大要塞マムルークへの移動をほぼ完了したとのことだ。
これで【フォリー・フィリクション・フロック】については問題ない。
お頭もいることだし、無下な扱いはされないだろう。
なにせ有能な人間が指揮を執れば超強力な戦力になる武闘派組織なのだから。
後は【フォリー・フィリクション・フロック】の存在をさらに高く売るため、私がこのトラップを完成させるだけだ。
七面倒くさいことを考えるより、こうやって作業に没頭する方が気が楽だ。
何も考えずに無心に進めることができる。
しかし、今にして思えば、こうやって作業に逃げ、大要塞マムルークにも入らず、あまつさえ真澄様と一度も打ち合わせをしなかったのは痛恨のミスだった。
真澄様と戦略についての打ち合わせができていれば、こうして達人者級の相手と対峙しても臆せず、渡り合えたのに。
対軍用のトラップではなく、達人者級、超人級のトラップを事前に準備しておけば、相手が【次元斬り使い】であっても遅れを取ることなどなかったのに。
◇◆◇
時刻は深夜。気付いたのは、コ・エンブだった。
最後の大詰めとしてコ・エンブ達が手伝いに来てくれていたのだ。
あるいはいつまでたっても山から離れない私を連れ戻しにきただけかもしれないが。
ともかく山の麓から巨大な炎が立っているのが見えたと報告してきた。
戦闘か!? だが、今日はまだ、開戦の日ではない。
予告された進軍の日は明日だ。
いや、零時を回っているから既に今日が約束の日なのか!?
そもそも侵略を開始するのに事前伝達をするなどまぬけな話だ。
信憑性に疑問のある情報だった。
どこから出回ったのかは分からないが信用をおきすぎたのも馬鹿な話かもしれない。
それでも直接、【皇帝】を見た私は愚直に約束を守る可能性も捨てきれなかった。
自分の言は決して曲げない。言葉の節々に【皇帝】としてのカリスマを感じた。
部下が暴走した可能性も考えられるが、あの【皇帝】のことだ、約束を破った臣下などいたら、その場で切り捨てていただろう。
つまり、あの炎は帝国側からの攻撃ではない。
王国側からの攻撃なのだ。
よく考えてみれば、零時を回ったから今日が約束の日だ。
なんて方便、真澄様なら喜々として使いそうだ。
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