第6話 人生初の職業選択です
「ようこそ、【情報管理局福天支部】へ」
フロアに入るなり、脳内に直接声が響いてきた。
22世紀現在、結局、予算のない我が国では公共施設が完全統合にされ、この現実世界の市役所には国土交通省、警察、消防、市役所が共通の建物を使って仕事をしている。
さらに都会になると軍、裁判所、学校も統合され、まるで要塞のようないでたちである。
外見こそ、くたびれた市役所の外観をしていたが中は一新されていた、大きなフロアがありそこに『市政相談』『情報申請』などの看板が立っていた。
「オレはチュートリアル終わってるから、外で待ってるよ。総合窓口に行けば後はオートだから」
そう言うと報音寺はそそくさとフロアの外へでていった。
フロアは主にスーツ姿の人であふれていた。
「どうも、大田中さん、情報体での訪問で悪いのですが」
「いえいえ、タハールさん。どうも電話では常々、わざわざインドからお越し頂いて」
「いやぁ~転送で5分ですがな。こちらこそ時間を取ってもらって悪かったですな~」
「いえ、やはり重要な案件は直接、顔を会わせてお話するほうが双方にとって有益ですので、どうぞこちらへ」
「それにしても日本は生物系のモンスターが多いですな~先ほど、大鹿にエンカウントしましたわい」
「またまた、レベル30のタハールさんなら一撃でしとめれたでしょう」
などと愛想の良い会話が聞こえる。情報体と瞬間翻訳を使った高度なシステムの運用の結果のはずなのに会話の内容はいやに薄っぺらい。
運良く、総合窓口のカウンターが空いてたので清水谷と2人で連れ立って窓口へと行く。
「あら、祥君久しぶりね。お姉さんは元気?」
受付のお姉さんが清水谷に声をかけていた。おっと、珍しい!!! NPCではなくアクターか!?
名札には生仁目とある。しっかりしてそうだが意外に抜けてる感じのある人だ。
どうやら本当にNPCではなく、市役所のアクターのようだ。
2050年以降公務員はますます削減の一途をたどり、仮想空間でできる業務はほぼ全てNPCが行っていた。
NPCを管理する、管理者か? それとも基点となる建物だから無理して常設させてるのか?
とにかくプレイヤー以外のキャラクターがNPCでないのは初めての経験だ。
しかし、アクターの弊害というやつか、なにやら会話が弾んでいるようなので間に入りづらい。
「ごめなさいね、待たせちゃって。とっ、お嬢さんは若いわね! もしかして初ログインかしら? うん、祥君と同じ福天高校の制服ね。パリパリの制服がよく似合ってるわ。もしかして祥君とパーティー組んで回ってるのかしら?」
ようやく清水谷へのチュートリアルが開始されたようだ。清水谷はぼぉーっと宙を見ている。おそらく、映像かなにかを見せられているのだろう。
「はい、先日、福天高校に入学して今日が初ログインです。春日井真澄と申します。よろしくお願いします。外で待ってる男の子と合計3人パーティーで回ってます」
私は幾分、緊張しながら答えた。
目の前のキャラクターは現実世界の市役所で働いてる職員さんなのだ。他のNPCへの応対のように雑にこなすわけにはいかない。リアルで遭遇する危険性だってあるのだから。
いくらなんでもログイン中に丁寧すぎたか? などと思っていたが受付のお姉さんはズンズン話を進めていく。
「外で待ってる男の子って、ひょっとしてあの赤メガネの背の高い子?」
恋話でも聞くような高いテンションで尋ねてくる。一応、清水谷に聞こえないようなヒソヒソ声なのだが明らかに面白がってる。
生仁目が壁を指さすと壁が透過した。
これは市役所の管理者権限なのだろうか。透過した壁のむこうで報音寺が妙に馴れ馴れしい仕草で女の子と喋っているのが見えた。
この短い空き時間でナンパか報音寺君。思ったより軟派なやつだな。
「はい」
「えっと、祥君とあの赤メガネの子と君の三人パーティーなんだ。なかなか面白いメンバーね、頑張ってね」
うん!? 男2人女子1人のメンバー構成のことを言っているのだろうか!?
あるいは報音寺のナンパ癖のことかな!?
妙に引っかかる言い方をしてきた。
怪訝な顔をしたので誤解されたのだろうか、生仁目が会話を切り替えてきた。
「おっと、そうだった。ゲームのキャラクターってことをすっかり忘れちゃうわ。それじゃ、チュートリアルを始めるわね。これも学校の門を出たらすぐ初めて欲しいわよね。他校との兼ね合いがあるのよ、きっと。まあ、セカンドワールドドオンラインにログインせねば人にあらずなんて嘘だからね。現実と架空の違いをきちんと区別してこれから生きていってね。さて、では、ゲームのキャラクターとしてまずは武器の説明をさせてもらいますね、初期説明を聞きますか?」
目の前に【YES】・【NOと】書かれたウィンドウが立ち上がる。
重大な選択でもないのにご大層な。もちろん【YES】と選択する。
うわっ、ムービーが始まったし。
「え~では以上の説明代と講習代で合わせて1000円になります」
ログイン時オートで与えられていた1000円がきれいに消えた。なるほどそういう仕組みだったのか。
「初期説明を聞いたので武器一式が今回に限り20パーセントオフになります」
「どの武器を選択されますか?」
う~ん、無料でもらえる初期装備をもらうべきか。
う~ん、ここでなけなしの小遣いを全てはたいて2000円の装備を買うべきか
う~ん、ここで虎の子の10000円を使って将来に備えるべきか。
う~ん、迷う。
あるいは防具アイテムを捨てて武器に全額かけて一点極化と行くべきか!?
うーん、選択肢が多すぎて迷う、どうしようか。いや武器を選ぶ前に職業の選択について考えるか。
やはり将来有利なのは剣士系な気もするが逆にその分が剣士プレイヤーの数が多くて低レベルのうちは特色がだせないか…
それなら序盤から強い銃使いか!?
しまった、この職業選択って文系理系の選択と同じぐらい重要じゃないか!!!
こんなことならもっと予習しといたらよかった!
頭を抱えてふと、清水谷の方を見ると剣を選んでいた。
「清水谷君は剣にしたの? なんで?」
「うーん、直感かな。武器のデザインから何となくだよ、どのみちレベルが上がったら他の武器も試せるでしょ」
「それより、悩んでるだけプレイ時間がもったいないよ」
なるほど確かにここで悩んでる時間でモンスターを倒したりクエストをこなしたりのほうが生産的だ! よし、決めた。剣にしよう!
「この場で装備されますか?」
なんともテンプレなアナウンスが流れてきた。
◇◆◇
「報音寺様」
「楓か、久しぶりだな」
すっと音もなく、報音寺と同じ背丈の女が現れる。由緒正しき忍者装束を着たくのいちだった。
「はい、報音寺様が高校に御入学されて晴れてセカンドワールドオンラインににログインされる日をお待ち申し上げていました。時折、報音寺様のログイン兆候をお見受けしたのですがすぐ消えてしまい、なかなかお会いすることができませんでした。誠に申し訳ありませんでした」
「心弱き者の指輪をつけてたんだ(探知防止アイテム)、気にするな。それよりオレはもうギルドマスターでもなんでもない。前にも言ったがオレに義理立てする必要なんかないんだぞ」
「いえ、ギルドの所属の有無に関わらず我らは報音寺様の後を追いていくと決めた者。どこまででもあなた様のあとを追いていきます。それよりも姑息なのはあの十二神将です。報音寺様に見出されて今の地位にあるのにギルドのっとりに参加しおって」
「それもセカンドワールドオンライン(ゲーム)のうちさ、彼も子飼いが何人もいるからね。断れば全面戦争になってセカンドワールドオンライン全体を巻き込んだ世界大戦が勃発してたよ」
「しかし、報音寺様、話は変わりますがお連れの男性…あれはもしかして」
「ただのクラスメイトさ」
報音寺は何事も無かったかのように、さらりと答えた。
読んで頂きありがとうございました。いや、一週間に一回の更新でも意外とキツイものですね。主にパソコンの前に立つのが…GWだし、もう少し更新できればなんて思っています。ご感想などあればお待ちしております。
さらにブックマーク、評価、メッセージなどもお待ちしております