第599話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あの方のことは真澄様と呼べ④
「今日はお別れの挨拶にやって参りました」
決意を込めてそう告げると、ドレフュスは相変わらず柔らかな笑みを持って迎えてくれる。
「そう…早いものね…クーリッジは一足先に大要塞マムルークに発ったわよ。【魔王】と戦えると聞いて随分、嬉しそうだったわ」
ドレフュスは子供に高価なおもちゃでも買ってあげたような満足気な表情でそう告げる。
何だよ、【魔王】って!?
真澄様はそんな極悪な敵をも相手にしているのか。
相変わらずスケールの大きな人だ。
「正に今この時は、時代の転換点なんでしょうね。フェビアンが出奔した時も、そうだったわ。後になって始めてそうだったと分かる。当時は何とも思わなかったけど、今にして思えばクロサガ王国の行く末が大きく変わった時だったわ。アイツの出奔のせいで直弟子派の力は大きく削がれ、さらに直弟子派同士で内部闘争まで行う始末。あそこでもっと上手くやれてば、帝国の侵攻に対しても、もう少しマトモな対応が取れたのに…惜しいわね、あの時にこそ、春日井真澄が必要だったのよ。あの時に彼女が存在していれば、皆、若かったから多分ころっと簡単に落ちたと思うのよ。私達全員の協力があれば、黒佐賀王を退位させることだってできたのに…」
さらっとドレフュスは毒を吐く。
ドレフュスは直弟子でありながら黒佐賀王にすら叛意を抱いていたのだろうか。
あまりにも怖くて、そんな話題には触れることができない。
「それにあなたも、もう少し、平凡な人生を送れたかもしれないわ」
謎の発言までしてくる。しかも今のは彼女にしては珍しく勘に触る言い方だった。
「私は今の発言には同意できません。平凡で退屈な安定した生活より、今の暮らしの方が刺激と苦痛と喜びに満ちています。私は【フォリー・フィリクション・フロック】に入れて本当に良かったと心から思っています」
私は自分の想いを素直に口にした。
たとえ、相手がドレフュスであってもココは譲れない。
【フォリー・フィリクション・フロック】があっての私だ。
【フォリー・フィリクション・フロック】に所属していない私はもはや別の存在だ。
仮定の存在だとしても、そんな相手に幸福度で負けるわけにはいかない。
こんな発言をするのもどうやら、ドレフュスは私の養育に関与できる立場であったようだ。
だとすれば、孤児院をお頭が襲撃し、私達を解放してくれたあたりに何かあったのかもしれない。
まあ、どの道、終わってしまった過去には興味がない。
私が興味があるのは過去の事実をどう活かすだけだ。
「…そう…。それはあなたを低く評価しすぎていたわね。ごめんなさい。その割に表情が暗かったから、何か思い悩んでいるのかと思って」
逆に言葉尻を上手く捉えられて切り返された。
しまった。さっきのはこの会話に繋げるための糸口だったのか。
大きなボロが出る可能性が高かったので真澄様との関係性についてはこれまで、なるべく話題を避けていたのだがまんまと誘導された。
「まあ、おおよそ検討はつくわ。春日井真澄とどう接するべきか迷っているのでしょう。あなた、賢いものね。その賢さがあなたを臆病にも、恥知らずにもする。それで困っているのでしょう?」
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