第597話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あの方のことは真澄様と呼べ②
そういえば、『気の保存』について書物を漁っていた時、体内に【気】を蓄積し続け、有事に蓄積した【気】を使うという【蓄田気の闘法】というものがあった。
あれも確かお頭が勧めてくれた本だった。
蓄積した【気】を体内に貯めるという方法が私にはネックで採用を見送ったが一連の著作の作者がドレフュスだったような。
なるほど、この女が【蓄田気闘法】の創始者か。
しかし、やはり私を知っている風なニュアンスだ。
どういうことなのだろう。しかも先程までと違ってひどく親しげだ。
まるで親戚の子供にするように接してくれる。
「私のことを知っているのですか?」
その態度に甘えて、私は疑問に思ったことをぶつけてみる。
今ならどんな質問にも答えてくれそうだ。
「うん!? お前は忘れたか? まあ、随分前のことだったからな。忘れているならそれでいい」
引っかかる言い方だ。けれど、これ以上、突っ込んでみても教えてくれそうにない。
お頭か、【フォリー・フィリクション・フロック】に古株に尋ねてみるか。
情報とは自分で集めるものなのだ。
「どうやら冷静になったようだから話を戻すが、それで監査の結果はどうだった? 今はクロサガ王国内で内輪揉めしている場合ではないと思うが?」
一歩引いた状態でドレフュスが追求してくる。
このまま有耶無耶にできるかと思ったがやはり、そう簡単にはいかないか。
「…それは、その通りですが…」
元々、私の力でドレフュス一門をどうこうできるとは思っていない。
しかし、せっかく組織の長が折れてくれそうなのに、ここで要求の一つも述べられない自分の不甲斐なさが嫌になる。
事前に準備が足りなかったからだ。
真澄様ならこういう事態に巻き込まれても、機転をきかして無茶要求を飲ませそうだが。
「春日井真澄にも伝えたが私は従来の方針を変えんよ。変えられんとも言うが。私達ドレフュス一門は春日井真澄に協力しない。しかし、敵対もしない。ただ、我が一門最強弟子であるクーリッジを春日井陣営に研修生として派遣する。私の愛馬鹿弟子を派遣するわけだから、まあ、間接的支援ぐらいはしてやる。以上だ」
ドレフュス一門との交渉は完全に失敗していると思っていたがそんな裏約束ができていたのか。
これは私がしゃしゃり出て、関係をまずくしてしまったかもしれない。
「フェビアンの馬鹿も出奔してから遊んでたわけじゃないってことが知れて良かったよ。だが、こんな騒動は御免だ。今日は帰るといい。今度来る時は客人として正面から私を訪ねるといい。私はいつでもヨウメイを歓迎する」
穏やかな笑顔でドレフュスはそう提案してくれる。
まずい、せっかくの好機だ。せめて何か一つだけでも提案しなければ。
ここでの戦闘が無駄になる。
窮した私は一番欲しいものを叫んでいた。
「あっ、あの、お金下さい」
うわ~何てことを言ったんだ。私は。
よりにもよってお金はないだろう。
せっかくこうも暖かく送り出してくれてる相手に何て無礼な態度を取ってるんだ。私は。
「うん、どういうことだ!? 詳しく話してみろ」
有無を言わせぬ表情でドレフュスは詰問を開始する。
私はただ、聞かれたことに答えることしかできない。
全てを語り終わった後、ドレフュスは深い溜息とともに感想を呟いた。
「はあ~何てことだ。フェビアンの馬鹿は自分の愛弟子に十分な金も持たせてないのか~アイツは昔から、こういうことにズボラなんだよ。甲斐性なしとも言うが」
お頭のことを随分、ひどく言う。
だが、言葉面こそ酷いものだが口調には温かみがあった。
「さて、金の話だが残念ながら私には君達に金を渡す謂れがない。だから支援は不可能だ。だが、働き口の紹介ぐらいならできる。まあ、このホテルで引き続き働けばいいだろう。衣食住がそろっているし、支配人には私から話を通しておく」
支援は不可能といいつつドレフュスは完璧な支援をしてくれる。
一体は過去に私とドレフュスとの間に何があったのだろう。
「まあ、いつ辞めてもいつ仕事を中断してもOKだ。まもなく開戦だ。直に春日井真澄も大要塞マムルークに移るだろう。決断の時を見誤るなよ。そして、お前はお前の使命を果たすといい」
そうやって事実上の仕事をしなくていい宣言までしてくれる。
これはそんじょそこらの関係性ではないな。帰ってからお頭を問いつめねば。
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