第596話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あの方のことは真澄様と呼べ①
「阿呆か、この馬鹿弟子。今、クロサガ王国がどういう状況にあるか考えろ。お前の短慮のせいでどれだけ国益が損なわれたことか理解しろ。私の特性を一番理解してるのはお前だろうが。ぐだぐだワガママを言うならもう永久にお前とは本気で戦わんぞ」
強い口調でドレフュスはクーリッジを叱責する。
どうやら、ドレフュスには本気で動けない理由のようなものがあるらしい。
「ええっ~スパイ行為をしてたのはあっちだよ~僕はスパイを退治しようとしただけだよ」
「私にすぐ分かる嘘をつくな。何年、お前の師匠をやっていると思っている。どう考えても戦闘を楽しんでいただろう。戦闘をするのが目的で、スパイ行為の撃退など口上にすぎんだろう」
「それはその通りだけど、それの何が悪いの~不可抗力だよ~悪いのはあっちじゃん~」
「スパイ行為ぐらい、どの陣営でもやっている。私だってやっている。問題なのはすぐにバレたことだ。お前、潜入工作にしては偽装が下手すぎるぞ、ヨウメイ。それはフェビアンに習ったのか?」
なぜかドレフュスの叱責が私にまで飛んできた。
しかも妙に馴れ馴れしい。
私が覚えてないだけで昔、会ったことでもあるのか。
「お頭はそんなこと、指示しないし、教えてはくれない。これは私の意思だ」
本当は単なる滞在費稼ぎでスパイ行為など目的の範疇外だったが仕方がない。
幸運と好機が重なったからたまたまスパイ活動をしただけだ。
しかも得るものなどなかったし。
しかし、ここまで勘違いされてるなら押し通すしかない。
「私はお頭からも真澄様からも単独行動が許可されている。お前たちの言動に不審な点があったので調査していただけ。クーリッジをつけるあたり、協力したいのか足をひっぱりたいのかも分からないからだ」
とっさの機転であることないことを主張する。どうせ、真澄様やお頭に確認されるわけではない。
言ってみてから本当にそれらしい理由になったなと自分で感心している始末だ。
「う~む、それについては同意せざるを得ないな。この不祥の馬鹿弟子は早くもお前たちの陣営に迷惑をかけたのか」
なにやらドレフュスは頭を抱えて考えこんでいる。
心の底からげっそりしている様子だ。
「足を引っ張るとまで言われるのは辛いな。これでもコイツを引き取ってくれたから影ながら支援してたのだが…コイツの無能がそれを凌駕したか…これほどの力量の人間を送り込んでくるぐらいだからな…春日井真澄は私に対してそこまで疑念を抱いているのか…」
なにやら盛大に勘違いしている。ここらへんで訂正しておかないと非常に危険か。
私まで真澄様に悪く思われてしまう。
「真澄様は関係ない。これは私の意思だ」
「なるほど、組織から独立して春日井真澄の利益になるならどんな行動も許可するエージェントを置いているのか…互いの監視とダイナミックな競争が可能というわけか。とんでもない組織論を考えるやつだな…」
あれっ!? 勘違いが解けてない。さらに爆走している雰囲気だ。
「それにその実力を見せられれば【フォリー・フィリクション・フロック】の精鋭だと分かる。まさか、この馬鹿にあそこまで肉薄するとはな。この馬鹿、本当に死にかけていたしな」
他人の目から見れば互角だったらしい。終始、私の方が絶体絶命だと思っていたが意外といい勝負だったのか。
「どうりで覚えのある名前だ。お前がフェビアンが引き取ったあの時のヨウメイか。フェビアンの見立ては正しかったというわけか」
感慨深い気に私を正面から見つめる。
まるで母親のような優しい声だ。
「それに内部貯蔵と外部貯蔵、方向性はまるで違うが私の他に【気の保存】について研究を進めているやつがいるとは思わなかったよ」
茶目っ気たっぷりにドレフュスは私にウィンクしてきた。
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