第595話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あの人のことは、まあ、フルネームでいいだろう⑲
クーリッジは始めて構えを見せ、超高密度の【赤気】の集束を開始する。
あんなものを受けたら確実に死ぬな。
爆縮型だと、巻き添えで死ぬ人間が多すぎる。
同じ死ぬなら『増殖型』を使って私とクーリッジ2人だけで死ぬべきか。
制御に成功し、百に一つ生きる目のある『爆縮型』を使うか、それとも確実にクーリッジと私を殺す『増殖型』にすべきか。
コ・エンブの存在もあるし、同じ死ぬならやはり『増殖型』か。
春日井真澄の抹殺に挑んだわけでもなく、単なる滞在費を稼ぎにきてこんなところで死んでしまうとは我ながら情けない。
目標を立て、それに向かって全力で突っ走り、ゴールが見えてきたところでつまずく。
なんとも私らしい。
こんなことなら意地を張らず、春日井真澄の第一の部下として協力すればよかった。
そうしていれば、クーリッジとも殺しあいをすることもなかった。
案外、先輩と後輩として上手くやれたかもしれない。
天才少年を育てるなんて面白そうだ。
女々しく終わった可能性について考える。
そろそろ、クーリッジの集束も終わる。わずか数秒が数時間にも思えた。
これが走馬燈に代表される体感時間の凝縮というやつか。
『増殖型』だって、制御に失敗すれば死ぬのは私だけになってしまう。
悔いの多い人生だったが最後の最後まで失敗で終わるわけにはいかない。
やるか。
そう、決心した時だった。クーリッジの【赤気】が霧散し、私の【保蔵の竹筒・増殖型】が奪い取られていた。
「そこまでよ。クーリッジ、ヨウメイ。私達、ドレフュス一門は【フォリー・フィリクション・フロック】と争うつもりはないわ。そして、春日井真澄とも。そのために我が一門、最強の弟子であるクーリッジを送り込んでいるのだから。これは些細な行き違いだと見たわ。つまらないことで関係を壊したくない。今が大事の前だというのはそちらも同様のはずです。要求は何?」
私とクーリッジを手玉に取り、ドレフュスは静かに仲裁する。
完璧な【気配断ち】だった。
数多くの【気配断ち】を見てきた私でも驚愕するレベルだ。
盗られて数秒後に気づくということはその一瞬で心臓を穿つことだってできたということだ。
そして、クーリッジの【赤気】を完全に霧散させた。
クーリッジが自分から構築を放棄したわけではない。強制的に霧散させられたのだ。
確か【霧散点】という技だ。
【気】の流れを見極め、特定部位を自分の【気】で上書きし、強制的に【気】の集束を霧散させる。
【気】の流れを見極める眼力、正確に突く技量、相手の【気】を一瞬とはいえ上書きするだけの高密度の【気】。
どれか一つでも欠ければ不可能だ。
しかもそれを【気配断ち】と同時にやってのけた。特に高密度の【気】の精製と【気配断ち】は完全に相反する。
超高難度の芸当だ。
おそらくお頭でもできない。
指導力だけでなく、ここまでの戦闘力も持っているのか、ドレフュスは。
「ふふっ、面白い~。久しぶりに師匠が本気で相手をしてくれるんだ。ねえねえ、ヨウメイ、共闘しない? 共闘して直弟子越えに挑んでみない?」
これまでの遺恨など始めからなかったかのような態度でクーリッジは提案してくる。
これ、切り替えってレベルの話じゃないぞ。
大丈夫なんですか、真澄様。このクーリッジってやつの頭は。
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