第592話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あの人のことは、まあ、フルネームでいいだろう⑯
「遅い!」
窮地を救ってくれたコ・エンブに私は容赦のない言葉を吐く。
「だって、下のフロアで作業してたんだよ。いきなり、戦闘になるなんて聞いてないよ」
私の従者のくせにコ・エンブは随分と呑気な発言をしてくる。
後で心構えから直してやらねばならない。
だが、助かった。あそこでコ・エンブが助けてくれなければ、詰んでいた。
想定よりも遥か上の実力者だ。お頭級と言っても過言ではない。
接近戦に持ち込まれれば、正直、手も足も出ない。
「さっきの真澄さんの気のダミーは仲間を呼ぶ合図だったわけなんだね」
クーリッジはけろりとした顔で立ち上がり、話しかけてくる。
無防備な隙を突いたはずなのにまるでダメージが入った様子がない。
「なかなか上手い【気配断ち】だ。僕達のと少し仕組みが違うのかな。けど、一度、視認できてしまえば、【気配断ち】の効果は薄い。今の一撃で僕を仕留めきれなかったのは痛恨だよ」
まだまだ、自分の有利を確信しているのだろう、呑気な戦術的考察を送ってくる。
「まあ、雑魚が一人や二人増えたところで大勢に影響はないけどね」
そう言うと再び、距離を縮め、仕掛けてくる。
コ・エンブが私とクーリッジの車線上に入り、立ちふさがる。
私とコ・エンブが二人一組で戦う時は大抵、この形だ。
コ・エンブが壁役を引き受け、私が【トラップ】で仕留める。
コ・エンブは守りも上手い。普段なら私に指一本触れさせないほど、強固な守りを維持する。
だが、流石に今回ばかりは相手が悪い。
クーリッジは高機動、高火力でコ・エンブを翻弄し、強烈な一撃を次々と放っていく。
コ・エンブもなんとか防ごうとするが速度が違いすぎる。
有効打が次々と入っていく。
あまり時間がない。
クーリッジを倒すにはあの速さを捉える全体攻撃。そして、あの防御を突破する高威力の攻撃が必要だ。
要求される水準が極めて高い。
春日井真澄といるといつもそうだ。
自分の限界を突破した先の目標を平然と要求される。
だが、それが春日井真澄の従者を務めるということだ。
決して格下相手に、それも舐めプをするために、その力があるわけではない。
そう思い直し、心を奮い立たせる。
コ・エンブがついに倒れた。
稼いでくれた数秒。決して無駄にはしない。
再び竹筒をクーリッジに向けて投げる。竹筒は空中で破裂し、圧倒的な光の塊が生まれ、視界を焼く。
私は当然、対策済み。投擲した時から目をつぶっている。
しかし、クーリッジは直撃を受け、瞬間的に光を失う。
どれだけ、【気】の防御に長けようと光を防御することは叶わない。
だが、クーリッジは探知特化。視力を失ったところで、戦意を失わず平気で追撃をかけてくる。
よって第二波投擲。
今度は警戒したのだろう発動する前に竹筒を切り落とした。
だが、それは読み通り。
切り落とされた竹筒の中から剣を伝い猛烈な量の電撃が流れる。
しかし、それすらも自動防御が発動し無傷。
だが、動きが完全に止まった。
『保蔵の竹筒』を握りしめ、私自らクーリッジの懐に飛び込み、ゼロ距離で竹筒を叩きつける。
中に入っていたのは春日井真澄の【黄金気烈眞槍】。
超高威力の【黄金気】の槍がクーリッジに直撃した。
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