第589話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あの人のことは、まあ、フルネームでいいだろう⑬
「まあ、お前をココまで甘やかしたのは私の責任だが…」
穏やかな様子でドレフュスは男との会話を楽しんでいる。
久しぶりにあった息子との会話を噛みしんでいるといった感じか。
作業をしながら時折、声が漏れ聞こえてくる。
楽しそうだ。
聞いているだけで暖かくなる。そんな雰囲気だ。
「ねえ~それで聞いてよ~真澄さんがさ~」
だが、時折、聞き捨てならない台詞を吐いてくる。
どうやらコイツも、名前をクーリッジというらしいが、春日井真澄の従者となったらしい。
私よりも後に入ったらしい。直弟子会議の後の様子だから、まだ仲間になって数日だ。
クーリッジも春日井真澄の器に惹かれたという感じだ。
本人が不在なのに確かな敬意を払っている。
やはり春日井真澄には達人者級を心酔させる魔力があるのか。
「それでさ~真澄さんがね~」
馴れ馴れしく春日井真澄の名前を呼ぶたび、何故か私の心はささくれる。
一体どうしてか。
コイツの方が私より新参のくせに、随分、仲が良さそうだ。
無意識にシーツを扱う力も強くなる。
理性では春日井真澄の目的達成のためには仕方がないだと割り切っているが感情は痛みを上げている。
私は何に対して悲しんでいるのか。
心の痛みを表情に出さないよう作業を続けているとクーリッジから突如、剣を突きつけられた。
「なに? 君? 間者? さっきから真澄さんの名前を聞いて【気】を乱してるよね」
しまった。
コイツ、ここまでできる奴なのか。お頭以上の探知能力だ。
そういえば、赤のドレフュスは天才少年を育成しているという噂があった。
コイツがそうか!?
突然の事態に動くこともできない。
私は春日井真澄と違って戦闘型ではないのだ。
「やめろ、クーリッジ。彼女はホテルのスタッフだ。身元は保証されている!」
ドレフュスが静止の言葉をかけてくれるが、クーリッジは剣を下げず威嚇を続けている。
この場合、クーリッジの判断が正しい。間者はあくまで私の方だ。
感情の変化が【気】の出力数に影響を与えるというのは半ば常識だ。
だが、それは本人のみが分かる感覚で、他人がそれを測ることはできない。
まして、今の私は【気】を展開していない。
ここまで微細な【気】の変化を見抜くような人間には未だ会ったことがない。
流石は春日井真澄が見出した人材だ。
だが、私とて春日井真澄に見出された人材だ。
戦闘型でないからといって、このまま降参という訳にはいかない。
非戦闘型英雄級従者の実力というものを見せてやろう。
ついでに先輩としての格も教えてやるか。
コイツだけには負けたくない。
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