第587話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あの人のことは、まあ、フルネームでいいだろう⑪
「先日、ココで戦闘があったのだ。それも達人者級同士の決闘だ。正直、肝が冷えたよ。君は【黄金気使い】の春日井真澄を知ってるかね?」
知ってるも何も私の上司だった相手ですよ。
そんな感想が漏れ出そうになるが今は我慢だ。
今日の目的は情報収集ではない。
現金確保だ。
ここは余計なことは言わずに、黙っているか。
歩きながらホテルマンは私に状況の説明をしてくれる。
私の心配をしてくれているのか、どんな人間相手でもこんな風に丁寧に教えるのか。
おそらく後者だ。
だから、ここのホテルは王都NO1なのだろう。
「現行、黒佐賀王最後の弟子。政軍分離の原則を破ってまで着任された麒麟児。しかし、なぜか突然のダーダネルス・ガリポリ領からの追放。このまま消えるかと思っていたが直弟子会議まで復活させ、再び名を上げている。その春日井様が先日、当ホテルに来店されたのだ、ドレフュス様に会うために」
私が知らないと判断したのだろう。ホテルマンは私からの返事を待たず、続けていく。
「ドレフュス様は当ホテルのオーナーの盟友だ。株式の3分の1も持っておられる。王都に訪れた際は必ず立ち寄られ、ワンフロアを貸し切り滞在される。知っている者は僅かなはずだが、春日井様はその情報をつかんだのだろう」
これはディズレーリの功績なのだろうか。
しかし、あの男、こういう情報収集は苦手そうな雰囲気があるのだが…
むしろ、こういう地道な情報収集こそ私達の得意分野だ。
何故か必要な時に役に立てなかったことが悔やまれる。
「いずれにせよ、約束も無しに突然やってこられ、通す通さないの押し問答の末、ドレフュス様の一番弟子の方と交戦されたわけだ。これはその残滓だ。補償は受け取っているがまだ、修理に着工できていないのだ。ドレフュス様はお怒りになるかと思ったがこのところ、ひどくご機嫌でな。現状維持で問題がないとお言葉を頂いたわけだ。全く、これだけの規模の戦闘を行い、同時にあの難物のドレフュス様を説得されるとは、底が知れんお方だよ」
何をやってるんだか、あの人は。
実にあの人らしい対応だ。
しかし、何故か春日井真澄が褒められると私まで嬉しくなる。
洗脳されすぎなのだろうか。
「とりあえず、君をドレフュス様に紹介する。挨拶の段階でご機嫌を崩せば、君を二度と君を雇えない。くれぐれも慎重な対応をお願いするよ」
そういうリスクは聞いてないんですけど…
念のため、コ・エンブを下のフロアで待機させていたのだが、こんな形で功を奏するとは。
これなら私が失敗してもコ・エンブはここで働き続けられる。
好条件での貴重な働き口だ。大事にしなくてはならない。
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