第582話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あの人のことは、まあ、フルネームでいいだろう⑥
大要塞マムルークの関所を無事、抜け、私達は数日かけてようやく王都ブーランジェに到着した。
数年ぶりの王都だ。
以前は自分の知る最大都市だと認識していたが帝都を知った今では粗末な街に思える。
私は【トラップ】を使用する時で機械の仕掛けをよく作るのでそれを痛感する。
文明のレベルが数段遅れているのだ。
下手に【気】の運用が日常レベルにまで浸透しているから、科学文明の進歩がないのだ。
明かりを点けるのに【気】を、重い物を運ぶのに【気】を、体調の変化を癒やすのに【気】を。
機械の手を必要とするのは私のように【気】の扱いが下手くそな者だけだ。
そんな私ですら、【トラップ】の動力部分には自分の【気】を使うことが多い。
しかし、動力伝達系や、センサー系の内部ギミックは機械部品を用いている。
魔法を使えば機械よりもさらに複雑かつより効率的なギミックを作ることができるだろうが私には魔法の才能もない。
残ったのは必然、機械だけとなる。
その際に使う部品もほとんどが帝国製なのだ。同じ部品でもクロサガ王国製は費用の面でも性能の面でも数段劣っている。
それでも流石はクロサガ王国の中心地だ。辺境よりは栄えている。
【トラップ】に使えるパーツを扱っている店に目星がつき、自然と目移りしてしまう。
いかんいかん、今は【フォリー・フィリクション・フロック】の代表としてきているのだ。
【トラップ使い】としてではないのだ。
情報収集! 情報収集!
情報を集めてみると既に王都は直弟子会議の噂で一色だった。
表向きは官ディズレーリが主催したことになっていたが勘のいい者は皆、春日井真澄の存在に気付いていた。
ダーダネルス・ガリポリから追い出さた無能領主。ディズレーリの数合わせに利用され直弟子会議にまで出席している。
情報の浅い者の評価はそこで終わっていた。
しかし、情報通から評価を引き出すと随分、印象が変わってきていた。
曰く、ダーダネルス・ガリポリ領から追い出されたのは帝国を騙す芝居。
わざと無能を演じ、下野し、帝国からのヘッドハンティングを狙い、内部から帝国を破壊していたのだというクロサガ王国エージェント論を唱える者や全く正反対の帝国のスパイ、その任務はクロサガ王国の地方と中央とにクビキを打つことなのだ。とスパイ論を唱える者など評価が二分していた。
部分的にでも春日井真澄の存在を知る私としては苦笑いするしかなかった。
他にも単身、帝国に乗り込み戦争回避の方策を取っていたというものや私達の盗賊団【フォリー・フィリクション・フロック】を壊滅させ、それを指揮下に置いたなどと玉石混交で様々な噂が飛び交っていた。
それでも、黒佐賀王の最強にして最後の弟子。正統後継者。最強の【黄金気使い】など聞いていて嬉しくなる噂もあった。
否定的な噂も多かったが肯定的な噂も増えてきていた。
あれほどの苦労をしていたのだ。
多少の評価がつかなくては悔しいものだ。
様々な噂が春日井真澄という人物を表現していた。
なぜか私までその評価を気にしてしまう。
私は春日井真澄ではないというのに。
これが英雄級の器量ということなのだろうか。
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