第579話 死地に赴くヨウメイは過去を省みる。あの人のことは、まあ、フルネームでいいだろう③
翌日、私は普通に目覚める。
もう帝国領内でもない。メッテルニヒもいない。安心して寝起きができる。
今日から何をしよう?
普通の仕事も当分、免除するとお頭から言い渡されていた。
つまりは無期限の休暇だ。
それほど、思い詰めた顔をしていただろうか? 体調の方は全く問題ないのだが。精神が…
しかし、いつまでもお頭に心配をかけるわけにはいかない。
早く、調子を戻さなければならない。
帝都襲撃の話は終わったのだ。
春日井真澄との契約は完了したのだ。
後は、開戦の報せと春日井真澄が死んだという報せを聞くだけだ。
それも直に届くだろう。
そのことを考えると心がふわふわし、落ち着かない。
こういう時、考え事をするとむしろ墓穴を掘ると経験則から知っている。
避けるためには何か作業に没頭する方がいい。
ずっと作業をしてると今度は身体が飽き、考え事をしたくなる。
その時、心の整理を行えばいいだろう。
あの日、不貞寝しながら考えた春日井真澄抹殺用トラップの試作品でも作るか。
いそいそと目的地に着き、作業を開始する。
試作品だから、精度に拘らなくてもいい。
まずは威力重視で作ってみよう。
考えると気が滅入る。とにかく、頭を空にして作業をしないと。
黙々と作業をしているとあっという間に時間が過ぎる。
8割方できたところで今度は虚無感が私の身体を包む。
こんなことをして何の意味があるのだろう。
あの女とはもう二度と会うことが無いのに…
ぽっかりと心に穴が空いた気分だ。
以前なら、自分史上、最大の仕掛けだ。
早く試してみたいと心躍ったのに、今は、虚しさだけが残る。
馬鹿らしくなったので作業の途中だがアジトに帰る。
アジトに帰えってボーッとしていると、コ・エンブが話しかけてきた。
やたら、帝都でのことを聞きたがるので思いつくままポロリポロリと語り始める。
最初はコ・エンブだけだったが、いつの間にか周囲に人が集まってきていた。中には大人たちも混ざっている。
皆、固唾を呑んで静聴している。
事の次第を語り終えると皆がそれぞれ感想を言い合った。
事件が起きたのはその時だった。
春日井真澄を助けに行くべきでないか。
依頼に拘るべきでない。
誰かがポツリとそう感想を漏らした。
そこから賛成、反対の二手に分かれ議論が開始された。
少し前まで完全な他人だった春日井真澄のために皆、どうしてそこまで動こうと思えるのだろう。
そんな中、報せが入った。
大要塞マムルークからお頭宛にだ。
使者が単身訪れ、告げていった。
『直弟子会議を開く。直弟子の一人としてフェビアンも参加せよ』とのことだった。
春日井真澄は未だ、諦めていなかったのだ。
私が腐っている中、絶望的な状況下でも尚、勝つための行動を続けていたのだ。
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